サヨナラのホームインに雄たけびを上げる渡辺(右下)に駆け寄る文星付ナイン=2006年8月8日、甲子園球場

<心つないだ大逆転劇 「主将に回せ」ナイン一丸>

 【2006年甲子園】

 ▽1回戦
関西
 030 010 501 │10
 000 022 034x│11
文星付

 最後の攻撃が始まる前、文星付の高橋監督は渡辺を引き寄せ、円陣を組むナインにこう言った。

 「この1年間、おまえらのキャプテンを務めたのはこいつだ。こいつに最後は任せろ」

 追う点差は3点。ドラマの幕が開けた。

 「確か、平均身長が一番低いチームだったと思う。小さな選手が、大きな相手に食らい付いていった姿に涙が止まりませんでした」(日光市、大塚裕美さん、35歳)

 平均身長169センチの小柄な選手たちが、大会屈指の190センチ相手右腕に挑んだ。1死から代打・中沢のヒットを足掛かりに2点を返した。さらに2死走者なしになっても保坂が内野安打で出塁。「渡辺に回せ」。ナインは心をつなぎ、打線をつないだ。

 「何が何でも主将の渡辺君に回すんだという気迫が感じられた。これほどしびれた試合はなかった」(那須塩原市、井上大輔さん、26歳)

 そして打席には渡辺。「みんながつないでくれた」という渡辺の打球は三遊間を破り、二塁から保坂が同点のホームイン。

 延長戦に備えなくてはいけないというのに、佐藤は涙を止めることができなかった。自分が失った得点を、先輩たちが3年間のすべてを懸けて取り返している。そんな光景を前に、ベンチ前で投球練習する2年生左腕の顔はもうくちゃくちゃだった。

 「(佐藤)祥万君が泣いていたのも印象的でした。隣のおばあちゃんが何かあったのかと心配して見に来たくらい、大声で応援していました」(さくら市、長井巨生さん、35歳)

 妻沼のヒットで渡辺がサヨナラのホームに飛び込む。土と汗で真っ黒になった主将をナインが囲んだ。序盤の4点差を追いつき、終盤の5点差をひっくり返した。

 「この試合がきっかけで高校野球が好きになった。諦めなければ何かが起こるということを、あらためて学んだ」(大田原市、大高朋典さん、20歳)

 「この仲間と一日でも長く野球をしたい」。そんな純粋な思いが呼び込んだ劇的な逆転サヨナラ勝ち。「この子たちと一緒に野球ができることを幸せに感じている」。胸を張る指揮官の目にも光るものがあった。