下野新聞社は、広く県民の健康長寿に寄与することを目的に「健康長寿とちぎづくり応援キャンペーン」を展開しています。今回は、最近、「健康経営」や「働き方改革」などのキーワードが注目を集めている職域における健康づくりについて、「健康長寿とちぎづくり県民運動」を展開中の栃木県の福田富一(ふくだ・とみかず)知事と、東京大学未来ビジョン研究センターの古井祐司(ふるい・ゆうじ)特任教授に話し合っていただきました。司会は、下野新聞社代表取締役社長の岸本卓也(きしもと・たくや)。

(企画・制作 下野新聞社営業局)

県の取り組みと課題

岸本

 県は、県民が生涯を通して健康でいきいきと暮らせる、豊かで活力ある「健康長寿日本一とちぎ」の実現に向けてさまざまな取り組みをしています。これまでの取り組みと現状について教えてください。

福田知事

栃木県知事
福田富一

 県では、2014年に「健康長寿とちぎづくり推進条例」を施行し、県民一人一人がどの地域に住んでいても心身ともに健やかに歳を重ねていくことのできる地域社会の実現に向け、市町、健康づくり関係者、事業者等と連携し、「健康長寿とちぎづくり県民運動」を推進しています。同年9月には、県民運動の推進母体として、市町や健康づくり関係団体等からなる「健康長寿とちぎづくり推進県民会議」を設立し、県民が食事や運動、喫煙など、生活習慣の改善に主体的に取り組める環境の整備に努めています。

 

岸本

 主なポイントは何ですか。

福田知事

 県民運動では、本県の健康課題を踏まえた重点プロジェクトを設定しています。身体活動量の増加に向けた取り組みである「身体を動かそうプロジェクト」では、ラジオ体操キャラバンの派遣や日常生活に取り入れやすい運動に関する研修会の開催などに取り組んでいます。また、脳卒中の発症予防及び初期症状の啓発の取り組みを行う「栃木県脳卒中啓発プロジェクト」では、脳卒中予防に関する研修会の開催や初期症状等に関するリーフレットなどの作成・配布を行っています。

岸本

 さまざまな取り組みをされてきました。どのように評価していますか。

福田知事

 2017年度に、健康長寿とちぎづくりの基本計画である「とちぎ健康21プラン(2期計画)」の中間評価を実施したところ、特に、青年・壮年層の働く世代について、野菜摂取量や朝食欠食等の食習慣のほか、運動不足、喫煙等の生活習慣の課題が認められました。このため、2018年度から、働く世代に直接的に働き掛けることができる企業等に県民会議会員を拡大するとともに、重点プロジェクトに食生活改善に向けた取り組みを推進する「食べて健康!プロジェクト」を追加し、県民運動の一層の展開を進めています。

岸本

 6月からは、「とちまる健康ポイント」がスタートしました。

福田知事

 県では、生活習慣に課題が見られる働く世代を中心に、楽しみながら健康づくりに取り組んでもらうため、歩いてためるポイントを特典に換えられる「とちまる健康ポイント」(愛称・とけポ)を6月1日から開始しました。事業では、スポーツ庁官民連携プロジェクトによる「FUN+WALK(ファンプラスウォーク)アプリ」を活用しています。アプリでは、いちごやとちぎ和牛などのプレゼントに応募できるとちまる健康ポイントのクーポンを発行しています。シンプルに「歩数=ポイント」で分かりやすく、さらに定期的な情報配信により、「歩く」以外の多様な健康づくり活動を提案しています。

 とちまる健康ポイントの連携企画として、通勤等においてスニーカーなどを履き、歩数増加を心がけることを呼びかける「栃木県庁ウォークビズ」を実施しており、私も普段からスニーカーを履いています。とちまる健康ポイントは現在、5千人を超える方々に参加いただいています。今後、さらなる事業の周知を図ることで、県民の皆様に、ぜひアプリをダウンロードし、とちまる健康ポイントに参加していただきたいですね。

岸本

 働く世代に課題が見られるようですが、先日、「県版健康経営認定制度」を発表されました。その概要を教えてください。

福田知事

 やはり、課題となっている働く世代の健康づくりを推進するため、事業所が従業員の健康管理を経営的な視点でとらえ、戦略的に実践できるように、県、協会けんぽ栃木支部及び健保連栃木連合会の3者が連携し「とちぎ健康経営事業所認定制度」を創設しました。

 認定の基準については、国の「健康経営優良法人認定制度」をベースとして、野菜の摂取や運動習慣の改善、脳卒中予防などの本県の健康課題に沿った取り組みに関する項目を追加しています。認定事業所には、認定証の交付やロゴマークの使用、求人票への表示などの支援のほか、今年度から実施している「健康長寿とちぎづくり表彰(健康経営部門)」へのエントリーを可能にすることなどを予定しています。来年3月から第1回の認定申請の受け付けを開始し、要件を満たした事業所を、6月頃に「とちぎ健康経営事業所」として認定する予定です。事業主の皆さまには、この制度に積極的に参加いただき、「健康長寿日本一とちぎ」の実現に向けて一緒に取り組んでいただきたいと思います。

「健康経営」について

岸本

 県版健康経営認定制度が動き出しましたが、なぜ、健康経営が注目されるのでしょうか。

古井氏

東京大学未来ビジョン研究センター特任教授
自治医科大学客員教授
古井祐司

 超高齢社会・日本では、この40年間にサラリーマンの平均年齢が7歳上がりました。平均年齢が7歳上がると病気になる率は約2倍になることから、職場で社員の健康に注目する意義はこれまで以上に高くなっています。また、国際競争が進み、日本企業に付加価値が求められる時代では、社員の創造性、企業の生産性の向上が不可欠です。健康経営が進んでいる企業では、社員の健康増進とともに、仕事に対するやりがい、職場のコミュニケーションが活発になり、残業時間が減るといった現象も見られます。日本の中小企業を対象とした私たちの先行研究では、社員の健康によって年間の労働生産性の損失額は1人当たり100万円の差があることが示されました。100人規模の企業では年間で1億円のインパクトがあるわけです。このように、社員の健康を基盤として企業の活力向上につながる健康経営は、新しい経営戦略のひとつと考えられます。

 

岸本

 普及する上での課題は何でしょう。

古井氏

 健康経営の認知度はこの数年で飛躍的に上がっています。その一方で、人的資源やノウハウが十分でない中小企業では、一歩を踏み出しにくいという課題があります。そこで、いま先進県で進められているのが、県庁が核となり、地域の関係機関と共創した活動です。重要な活動のひとつとして、商工会議所や企業と連携した中小企業への支援が挙げられます。経済産業省と東京商工会議所によって認定された「健康経営アドバイザー」を活用して、中小企業の経営者に健康経営の重要性を伝え、県の施策を紹介します。そして、実際の取り組みに必要なサービスを持っている自治体や保険者、企業につなぎます。自治体の資源が限られている中、既に全国で1万人以上が認定されている健康経営アドバイザーによる活動は有用で、昨年の日本公衆衛生学会では福島県の成功事例が発表されました。

 また、健康経営に取り組んだ県内企業の成果が、次の取り組みを生んでいきます。どのような健康課題を持った会社が、どんな取り組みをしたら、こんなに良いことがあった、そのような取り組みの評価を毎年実施していくことで、栃木県に取り組みノウハウが蓄積され、それを見た企業が次の先進企業になっていきます。先進県では、素晴らしい成果を上げた健康経営企業に、就職したい学生さんが殺到する、といった現象も生じていて、健康経営の認定と併せて、取り組みの中身をしっかり評価することが、その企業の社会的評価と、県内企業への普及にもつながります。

岸本

司会を務めた下野新聞社社長の岸本卓也

 「県版健康経営認定制度」により地域社会にどのような効果が期待できますか。

 

福田知事

 認定事業所の健康経営の取り組みが、社会的な評価を受けるようにしていくため、県ではこの認定制度を創設しました。国の認定制度について、中小規模法人部門の認定数を見てみると、2018年は全国で776、栃木県で28だったところ、19年には全国で2502、栃木県で54と、大幅に増加しており、健康経営への関心度は高まってきています。とはいえ、何から始めればいいか分からないという事業所や、国の制度では一歩を踏み出せない事業所もあるのではと考えております。こうした事業所の取り組みのきっかけになってほしいという思いから県版の認定制度を創設しました。

 県版の健康経営認定制度が動き出すことで、まずは健康経営に取り組む事業所の数を増やしていきたいです。そして、県の認定取得後も、他の事業所の取り組みを参考にしていただくとともに、国の認定取得に向けて取り組みを充実強化していただくことで、県内事業所における健康経営の取り組みが質・量ともにレベルアップしていくことを期待しています。そうすることで、従業員の健康の保持・増進が図られ、個々人の人生の充実、事業所の経営向上、社会にとっては医療費等の削減につながり、「健康長寿とちぎ」の実現に近づいていくと考えています。

古井氏

 健康経営は、健康になることが目的ではありません。経営者が「健康」を通じて社員に寄り添い、社員はやりがいを持っていい仕事をする。それが持続的な企業活動にプラスに働く、まさに日本的な経営の良さが表れる取り組みです。全国の健康経営の先進企業は、地域の活性化にも貢献しています。健康経営に取り組む企業に健康ランチを提供するお弁当屋さんが話題となり、流通や農家も活性化し、地産地消が進みます。また、健康経営企業の理念は取引先や顧客だけでなく、就職活動をする若い人にも魅力的に映っているようです。自治体にとっても、これまでアプローチが難しかった働き盛り世代の健康課題に、職場と共創することで解決する道筋が見えてきます。それぞれの企業の健康経営が職場に閉じることなく、社会に開かれた取り組みとなり、地域の活性化にも資するよう、栃木県のリーダーシップのもとでの地域の皆さんのご活躍を祈念します。