
このコラムのタイトルと同じオリジナル日本酒「左党・イトウの今夜も一杯」が2月中旬に完成した。賛同を得た下野新聞社内などの日本酒ファンとともに実現した。言い出しっぺの自分でも「よくそこまでやるよ」という半ばあきれた思いもあるが、自分のオリジナル酒を造るなんて日本酒好きにとってこれ以上ぜいたくなことはないかもしれない。何よりラベルにQRコードを付けることで、昨年4月から始まったコラムや県内のお酒情報を集めた「とちぎ地酒亭」の記事をスマートフォンで“つまみ代わり”に読んでもらい、少しでもコーナーの認知度を高め、県内のお酒の魅力を広めたいと思っている。
この10年、何だかんだ県内の産業関係を取材しているうちにいつの間にか日本酒を中心に県内のお酒を取材報道するようになっていた。世界最大級の日本酒コンテストで頂点に立ったり、酒処といわれる新潟県などの酒蔵も集まる関東信越国税局主催の鑑評会で毎年のように最優秀賞を受賞したりする栃木県酒蔵の底力、そして県産日本酒の味わいに魅了された。
2024年7月、要望に応じたオンリーワンの日本酒造りを100本から請け負うオーダーメイド酒専門の小林醸造前日光醸造所創業に触れ、独自の日本酒ビジネスモデルに新たな可能性を感じた。依頼主は単に発注だけでなく、酒造りを体験できる特典がある。廃校の小学校体育館を改修した醸造所内では依頼主の飲食店経営者、企業関係者、酒米を栽培した農業高校生などが蒸し米の放冷や発酵タンクの櫂(かい)入れなどを体験し、出来上がるオリジナル酒に期待を膨らませていた。そんな取材を行う中、私自身もオリジナル酒造りに挑戦したくなった。
目指す酒質を伝えたのは昨年10月中旬。酒米を持ち込むこだわりの人もいるが、米の高騰や予算の関係もあり、麹米に同醸造所が常備する栃木県産の山田錦を精米歩合50%、掛け米には鹿沼市産の飯米イセヒカリを同55%で仕込む純米吟醸酒を頼んだ。代金(値上げ前)は原材料費、瓶代含む醸造料で29万7千円(消費税込み)。
味わいのイメージは言葉で言ってもうまく伝えられないので、実際に「廣戸川 純米吟醸」(福島県天栄村・松崎酒造)と「姿 純米吟醸 愛国3号 無濾過生原酒」(栃木市・飯沼銘醸)を持ち込み、両方を合わせたような味わいで、やや酸味を感じるものをお願いした。松崎酒造は2年前に蔵見学に行き、購入した廣戸川の純米酒のおいしさが記憶に強く残っていた。姿の愛国3号は昭和初期の本県オリジナル米を復活させたもので、複雑な味わいと酸味が印象的だった。
年が明けた1月7日、私1人で三段仕込み最初の初添え用の掛け米7キロを洗米した。厳冬期、洗水の温度が10度に保たれているというが、火の気のない醸造所内で、素手で洗う洗米作業は水の冷たさに覚悟が要る。籠に入れた米をたらいの水に浸し、両手で8の字を描くように洗米すること30秒。腕まで冷たさが走る。時間が長く感じられ、まだ30秒経たないのかと時計を見ることしきり。それを2回繰り返した。これを毎日行う蔵人はやはりプロだと思った。
11日、三段仕込みの最後の「留添え」には社内で募った親子含め10人が参加した。まず廃校舎の教室で醸造所の生い立ち、日本酒の酒造工程、並行複発酵、三段仕込み、そして実際に体験する留仕込みについて講義を受けた。
いよいよ蒸し上がったばかりの掛け米を冷ます放冷作業に入った。蒸し米は90度前後あり、素手だと火傷もしかねない。ゴム手袋を着けた。確かに熱さが和らぐ。何回も裏返ししながら混ぜ合わせ、40度台に冷ますが、日常生活で手で蒸し米を冷ますことなどないだろう。冷めてきた米は塊になり、作業は迅速さも求められた。未就学の子供たちも真剣に取り組んでいたのも印象的だった。
冷めた掛け米は、2人で布の端と端を合わせて持ちながら発酵タンクに入れた。参加者は順々に櫂棒を入れて醪(もろみ)をかき混ぜる「櫂入れ」というタンク内の米を均一する作業を行った。タンク内には30キロ以上の米が入っており、結構重く、力の要る作業だと実感した。参加者からは「貴重な体験で面白かった。お酒が出来るのが楽しみ」という声が相次いだ。
これと前後して私は社内のグラフィックス部の協力を得てラベルのデザインを詰めた。安直との指摘もあったが、下野新聞デジタルのコラムとコーナーのタイトルデザインにこだわった。ラベルは当社と取引のある井上総合印刷(宇都宮市)に発注した。2枚組のラベル代は100枚も200枚も3千円しか差がなかったので、もしもの時のために200枚を作成。料金は3万7400円(消費税込み)だった。

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