インターネット上で「足利市内の公園で白昼、日本人夫婦が外国人に襲われた」との情報が拡散している。下野新聞社が足利市や地元自治会関係者、捜査関係者らに取材した結果、この情報を裏付ける具体的証言や客観的事実は確認できなかった。「地元紙に数行の記事が載った」との情報も出回るが、下野新聞では該当する過去記事は見つからなかった。

 ネット上の情報は多少の差違があるものの、「木々に覆われた大きな公園を散策していた日本人夫婦が外国人5、6人に襲われ、妻は性的暴行を受けた。犯人は捕まっておらず、妻は自殺し、夫は他の地域に転居した」という内容。

 市西部の公園名と犯人とされる外国人の国籍が流布される一方、発生時期は「数年前」から「20年とたたない」と曖昧だ。この情報は数年前から出回っており、今秋から拡散の勢いを増している。

 情報の根拠の一つとされているのが、2021年春に公開された動画だ。市役所を訪れて情報について尋ねる政治団体関係者に対し、市職員が「そういうのもありましたね」と返答しているように聞こえる。

 しかし市の担当部署に確認すると「相手の勢いに押され、あいまいに返事をしてしまっただけ。発言を肯定する趣旨ではない」と弁明した。市は改めて調査し「事案は確認されず、ネットで出回る話は事実でないと考えている」とした。

 ネット上では「地元民なら誰もが知る」とされているが、公園周辺に長年住む自治会関係者や複数の住民は取材に対し「聞いたことがない」と一様に否定。「ネットで出回っているが、根も葉もないうわさ。イメージを悪くされ、憤りを覚える」との声も上がった。

 捜査関係者も「そのような事件は把握していない」とする。1995年以降の下野新聞の記事も確認したが、該当記事は見つからなかった。

■足利市長「風評被害」を懸念 市執行部「把握していない」

 「足利市内の公園で夫婦が外国人に襲われた」との情報がインターネット上で拡散している問題で、足利市執行部は10日の市議会一般質問で、「そのような事実は把握していない」と答弁した。早川尚秀(はやかわなおひで)市長は「風評被害と認識している。市全体としてもイメージの低下になりかねない重大な事案」との認識を示した。

 市によると、本年度に市へ寄せられた外国人に関する相談件数は約30件で、この情報に関する内容が10件程度あった。ほとんどが市外からで「外国人犯罪に対する抗議や一方的な感情」だったという。

 早川市長は「日本人、外国人問わず、ルールを守らない場合は厳正に対応して市民の安全を最優先する」としつつ「風評被害を回復するのはとても難しく、(ネットで)書かれ、たまったものではない」と憂慮。「正しい情報発信に努力し、市民が安心して住める社会実現に向けて取り組む」と答えた。

 小林貴浩(こばやしたかひろ)市議が「(公園周辺で)徹底的に聞き取りしたが、事件を知っている人はいない。風評被害にどう取り組むのか」と質問した。

(特別取材班)