救急搬送時にマイナ保険証の医療情報を活用する「マイナ救急」が今月、県内消防本部でも始まった。現状でマイナンバーカードを持ち歩く人は限られ、せっかくの仕組みが絵に描いた餅になりかねない。救急医療の質、効率向上に向け、国や県は啓発に努めてほしい。提供体制の維持への寄与も期待したい。

 マイナ救急は健康保険証をひも付けしたマイナカードから、救急隊員がカードリーダーで受診歴や持病、服薬状況などを把握。総務省は「あなたの命を守る」と掲げ、傷病者の状態を見極めて適切な対応ができる。やりとりが難しくても医療情報を共有でき、隊員と傷病者の双方にとってメリットは大きい。

 県内救急医療の維持に資するとの視点も持ちたい。県によると2023年の救急搬送は過去最多の約8万5千件。高齢者を中心とした救急医療需要の拡大は必至で、県は持続可能な体制整備を急ぐ。

 マイナ救急は、救急隊員や医療機関の「迷い」が軽減し、負担を減らせる。傷病者の状態に合った受け入れ態勢が整えやすくなるだろう。救急医療体制を守る助けになるよう、一人一人がマイナ保険証を携行できるようにしたい。

 マイナ救急の実証事業は24年度に全国で始まり、県内では小山市消防本部が参加した。約110日の事業期間中、約2350件の搬送があったが、マイナ保険証から医療情報を確認したのは約140件、約6%にとどまった。

 厚生労働省によると7月末現在、全人口の約79%がマイナカードを保有し、うち約87%が保険証として登録。利用拡大の素地は整っている。

 しかしマイナ救急の浸透を図る道のりは、平たんではない。マイナ保険証について、医療情報のひも付けミスなど、信頼を揺るがす事態が相次いだ。医療情報はプライバシーの中でも、とりわけ秘匿性が高い。医療機関では、表示が正しくされないといったトラブルも指摘されている。紙の保険証に何ら不便を感じず、手放せない人も多い。

 一朝一夕に浸透することは難しいとはいえ、国や県はマイナ救急の有用性や、健康保険証とひも付けしたマイナカードを外出時には必ず持参するなど活用促進の方策を粘り強く訴えるべきだろう。マイナカード、マイナ保険証の信頼性を不断に高めることがベースである。