
水害で失われかけた品々が、戦争の記憶を伝える資料として息を吹き返した。
この夏、戦争が本県に残した爪痕や戦時下の人々にフォーカスした県立博物館の特別企画展「とちぎ戦後80年 いま、おやと子で知る軍隊・戦争と栃木」が開かれ、紙面と下野新聞デジタルで詳報した。400点におよぶ資料が並ぶ中に、元佐野市職員の磯田守(いそだまもる)さん(81)が収集した資料があった。
磯田さんのコレクションの存在を知ったのは2年前。2019年10月の台風19号の影響で佐野市の秋山川が氾濫し、磯田さん方も被災。戦争博物館を作ろうと数十年かけて集めた資料が水浸しになった。磯田さんの資料が被災したことを知った県内外の有識者が資料を救出し、新聞紙で水を吸い取るという地道な作業を繰り返して修復させた。
特別企画展を担当した県立博物館学芸員の小栁真弓(こやなぎまゆみ)さんも、受け入れられる資料がないかと磯田さんの元に通った。昨年12月の調査に同行した際、思い入れのある資料について熱心に説明する磯田さんと、自宅や倉庫を隅々まで調べる小栁さんの姿が印象的だった。
県立博物館が磯田さんから預かった資料は100点弱。このうちの十数点が、特別企画展で「磯田守氏コレクション」として紹介された。戦車や戦闘機、軍艦が描かれた産着は、子どもの健やかな成長を願う行事にも戦時色が反映されていたことがうかがえる。小栁さんは「資料の収集を重ねてきた磯田さんの努力に、少しでも報いることができた」と振り返る。
磯田さんの資料は、戦時下の生活を語り継ぐ資料として今後も活用されるだろう。戦後報道に関わった私たちも“語り部”の一人であると胸に刻み、戦争の記憶を後世に伝えていきたい。
(デジタル報道部 武藤久美)
太平洋戦争の終結から80年の節目を迎えた今年、下野新聞社はさまざまな平和報道を展開している。戦争体験者がわずかとなり、記憶を伝えることが年々難しくなる中、平和への願いを未来へどう継承していくか。15日に始まる新聞週間に合わせ、取材を担当した記者が抱いた思いを紹介する。