今秋の県内はクマの出没が減少する見通しとなった。県林業センターの調査で、餌となるドングリなど堅果類の結実が好調であるためだ。豊作の年は山から出ず、人里に下りてくることが少ないことが知られている。
しかし油断は禁物だ。紅葉やキノコ狩りのシーズンを迎え、人が山に入ることの多い季節である。クマの個体数は増えているとの統計もある。山中で不意に出くわした時に備えの万全を期すとともに、生活圏に呼び込まない、引き離す対策が求められる。
県によると、本年度の県内捕獲頭数は8月末時点で19頭。昨年度の33頭より大幅に減少した。人里への出没が減っているためである。
しかし人身事故は8月末時点で3件発生している。那須塩原市内では住宅敷地内で男性が襲われ重傷を負った。
クマの個体数は増えているとみられる。2024年度に実施した調査では、推定生息数の中央値が961頭。19年度は606頭だった。県北西部の山間地帯を中心に平野部まで幅広く生息している。先月には栃木市の渡良瀬遊水地内でも初めて確認された。
一方、全国ではクマによる人身被害が相次ぎ、25年度の犠牲者数は過去最悪のペースで推移している。登山やキノコ狩りだけでなく、生活圏でも犠牲者が出ている。秋田県では障害者施設で女性が被害に遭った。重大な人身被害にはならなかったが、群馬県沼田市で今月、スーパーにクマが侵入して商品を物色する騒ぎも起きた。
クマはこの時季、冬眠前で食欲が旺盛になり行動範囲も広がる。山に入る場合は単独行動は慎み、クマ避けの鈴やスプレーを携行したい。生ごみは放置せず、カキやクリなどの果樹はできるだけ早く収穫するか、できなければ伐倒も検討してほしい。
クマは中山間地で生態系の頂点に立つ。保護と駆除のバランスには最大限の配慮が必要だ。県はこれまでの調査で得られた知見をさらに磨き、クマ出没の予測や行動パターンの把握に努めてもらいたい。特に中山間地の学校や福祉施設などの周辺では、きめ細かな対策が重要となる。
市街地に出没したクマを自治体の判断で駆除できる「緊急銃猟」を巡るマニュアルも本県では進んでいない。対象自治体はマニュアル策定をなるべく早く進めるべきだ。