私の場合、小説を書くにあたっていちばん脳を使うのはいつかと言いますと、校正の時です。
30年近く続けていた公募活動の時は、誰にも校正を頼めないので自力でやってました。
とある指南書には「この世でいちばん嫌いなヤツが書いた小説と思って校正しろ」とありまして、つまりは「とにかく、アラを見つけてやる」くらいの意識でチェックしないと、誤植や矛盾点を見逃してしまうのですね。

郵便局に応募原稿を出してから間違いに気付き、引き戻しに行ったことも何度もありました。今となっては良い思い出です。
なお、郵送してしまったら、もう絶対読み返さないことにしてました。だいたい、間違いを見つけて落ち込むのが関の山だからです。
最終選考に残ったという連絡を受けた場合のみ読み返しましたが、やっぱりミスを見つけて落ち込むハメになりました。出版社によっては、最終選考選出が決まってから審査員に作品を提出するまでの間に、修正できる場合もあるようです。私が最終選考に残った賞はできませんでしたが…。
晴れて小説家となり、担当編集者と二人三脚で小説を書いている現在はどうかと言いますと、いわゆる「ゲラチェック」作業がいちばん脳を使います。
ゲラとは、校正用の試し刷り原稿のことで、編集部から送られてきます。
一枚ごとにみっちりと担当編集者や校正者の指摘が書いてあり、それを受け入れるか否かを書き込んだり、自分自身でも誤植チェックしたり、矛盾点を探して赤字を入れていきます。
最初に送られてくるのが「初校ゲラ」で、初回のチェックを反映したものが「再校ゲラ」です。出版社により、何回ゲラチェックをできるかは様々ですが、だいたいは2回。つまりは、再校ゲラまで。ミスを見逃すと、そのまま書店に並んでしまうのです。それは避けたい…!と、全神経をゲラチェックにかけるのです。

よって、脳に栄養を与える必要があるのです、という言い訳のもとに、コンビニにオヤツと飲み物を買いに行ってます。
ここで注意なのが、ドリンクはかならず蓋つきの容器に入っていること。なぜなら、容器を倒してゲラを汚さないようにするため。経験者は語ります。ペットボトルやタンブラー、もちろん水筒でもオッケー。もちろん、原稿まわりに飲み物は一切置かないという方もいらっしゃいます。
そして、とにかく脳に糖分を送って燃料にしてもらわなければなりません。ダイエットなんて二の次なのです。
カステラ、あんまん、ヨウカン、フレンチトースト……。
「がんばれ、脳!栄養をたっぷり送ってあげるから、最後の力を振り絞れ!」と脳に叱咤激励と共に、栄養を送りこんでいます。

ああ、それなのにそれなのに……(涙目)。
本の状態で読むと、ゲラとは違う視点で読めるようで、いろいろと「発見」してしまうのです。
デジタルの文章はあとで直すこともできますが、印刷して世に出た本はもう無理。誤植を見つけた時の絶望感というのは、筆舌に尽くしがたいものがあります。
直すチャンスは、重版が出たとき。しかし、昨今の出版事情では、なかなか重版も難しいもの。
よって、脳に栄養を送りこみながら、ひたすらゲラチェックに全神経を集中させるのみ。
敵は自分!