<信頼できない語り手による回想>といえば、原作者でノーベル文学賞作家であるカズオ・イシグロさんの作品、というぐらい、よく使われているスタイルです。イシグロさんのデビュー長編小説を、石川慶監督が脚本も務めて映画化した「遠い山なみの光」(全国公開中)は、終盤にさしかかるまでは、原作にかなり忠実に作られている印象です。
終盤は、石川監督の解釈によって、原作よりも踏み込んだ、一つの答えのようなものが示されます。しかし、それで全て、回想の曖昧さが全てスッキリするというわけではありません。むしろ、その曖昧さや、うそこそが、本質へと想像を広げるための入り口なのでしょう。
【あらすじ】
1980年代の英国、郊外の一軒家で悦子(吉田羊)が、1950年代に自身が暮らしていた長崎での数週間の出来事を、娘ニキ(カミラ・アイコ)に請われて語ります。
原爆投下、終戦から復興が進む50年代の長崎―。若き悦子(広瀬すず)は、会社勤めの夫・緒方二郎(松下洸平)と2人、団地で暮らし、妊娠しています。
団地の部屋から見下ろせる河川敷に、ぽつんと建っている古い木造の平屋に住みついた親子、佐知子(二階堂ふみ)、万里子(鈴木碧桜)と悦子は知り合います。
当時の専業主婦らしい暮らしぶりの悦子とは対照的に、佐知子は米兵と付き合っていて、近くその米兵と一緒に自由の国アメリカに渡るの、と言います。その姿が悦子にはきらきらとして映りますが、この米兵は不誠実な人間のようで、佐知子は約束をすっぽかされてしまいます。それでも、そのうち必ず一緒にアメリカへ行くつもりでいます。佐知子の娘・万里子は口数が少なく、人に懐きません。「女の人に川向こうへ連れて行かれる」と訴えたりして、なんだか不安定な様子。
悦子の夫・二郎の父・緒方誠二(三浦友和)が福岡から訪ねてきて、しばらく悦子たちの家に滞在するといいます。誠二は小学校の元校長で、悦子も元は教員だったので旧知の間柄です。ただ、誠二がなぜ、福岡から長崎にやってきたのか、本当の理由は…。
ちなみに、悦子の長崎時代の話を初めて聞いている娘ニキは、再婚相手との間にできた次す。長崎時代に生まれた長女・景子は、悦子に連れられ英国に移り住み、成長したのですが…。
悦子が語る記憶はどこまでが本当? 謎めいた佐知子とは? 見どころを詳しく紹介している動画をYouTubeチャンネル「うるおうリコメンド」にアップしましたので、よかったらご覧ください。(共同通信=宮崎晃)
▼今回の動画URL
https://youtu.be/JUrC_IiMl3Q