JR山手線・京浜東北線の浜松町駅(東京都港区)には、空の旅や海の旅への出発点という性格がある。羽田空港へ向かう東京モノレールの始発駅に接続し、伊豆・小笠原諸島への玄関口、竹芝客船ターミナルへは徒歩で10分弱。構内は旅行者の姿が目立ち、旅の気分が漂っている。
浜松町は、訪れる人を歴史への旅にいざなう土地でもある。駅周辺は近年の再開発でモダンな街並みに変わりつつあるが、地域のシンボルはといえば、大名庭園の趣を今に伝える国の名勝「旧芝離宮恩賜庭園」だろう。まずはここから歩き始めることにした。
庭園の始まりは江戸初期にさかのぼり、幕末には紀州徳川家の「芝御屋敷」だった。維新後は一時期、有栖川宮家が所有していたが、宮内省が買い上げて「芝離宮」となり、大正時代に東京市へ下賜された。現在は東京都立の庭園として一般公開されている。
大きな池が広がる変化に富んだ園内で、庭石を幾つも集めた独特の風景が目を引いた。趣向を凝らした石の配置、石組みが見どころの一つだという。池の中心にある「中島」に立って周囲を眺めると、穏やかな池の広がりと木々の緑を、硬質な石が一層引き立てているようだ。
江戸人の風流心にしばし思いをはせた後、海を目指した。
庭園を出て東に進むと、竹芝客船ターミナルがある。オフィスビル、ホテル、レストラン、海上公園などが一体的に整備され、散歩するだけでも楽しいエリアだ。小高くなった「プロムナードデッキ」から東京港を遠望する。遠くから白い客船がゆっくり近づいてきた。
客船待合所近くの広場には、帆船のマストをかたどったモニュメントが立つ。下から見上げると、帆桁に立った水兵服の人形が、何か合図の声を出しているようだった。
【メモ】新交通システム「ゆりかもめ」の竹芝駅は、竹芝客船ターミナルに直結している。