人気アニメ「ルパン三世」シリーズの新作「LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン」が、6月20日からアマゾンプライムビデオなどで配信される。従来のアニメ版ルパンよりもダークでシリアスな展開が特徴で「大人のルパン」とも呼ばれるシリーズの第4弾。27日に公開される劇場版の前日譚に当たる作品だ。
物語の鍵を握るのは、ルパン三世と顔がそっくりな「偽ルパン」。空港で爆破テロを起こして大勢の死傷者を出し、その罪をルパンに着せようとする。だが、ルパンの宿敵・銭形警部だけはテロを起こしたルパンが「偽物」であることを見抜いていて…。
本物と偽物の違いとは何か。他人を完璧にまねることは可能なのか。かつて物まねをきっかけに「本物」のルパン役に起用された栗田貫一と、今作で憧れのルパンの「偽物」を演じることになった堀内賢雄が、それぞれの役作りを語った。
くりた・かんいち 物まねタレントとしてテレビ番組などに出演。1995年からアニメ「ルパン三世」シリーズで主人公ルパン三世の声を担当している。
ほりうち・けんゆう ブラッド・ピットやチャーリー・シーンの吹き替え声優として知られ、アニメなどでも活躍。声優事務所「ケンユウオフィス」代表。
【(1)似せようとして深みに】
▼記者 まずは堀内さんに。偽ルパン役のオファーを受けた時の心境は?
★堀内 ずっと「ルパン」に出たいと思ってたから本当にうれしかったんだけど、妙なプレッシャーもありました。なんてったって「偽ルパン」ですからね。
▼記者 アニメだと「顔がそっくり」の偽物が出てきたら、声も本物と同じ声優さんがやるケースが多いですよね。
●栗田 そう。だから僕は最初、両方やるつもりで、すごく悩んでたんです。このシリーズのルパンは元々(過去のテレビアニメより)「悪いルパン」。それより悪くするなんてどうすればいいの?って。そしたらスタッフさんが「違います」って。
★堀内 でも(偽ルパン役が)俺だとは聞いてなかったんだよね。収録の時に(スタジオの)ロビーで会って「誰がやるのかと思ったら賢さんか!」って言われました。
●栗田 当時はまだコロナ禍だったんで、全員別で収録したんです。で、僕が終わって出たら賢さんがいて「どうやったらいいの?」って聞くんだけど「知らないよ」って言うしかない(笑)。でも出来上がった作品を見たら、素晴らしい悪者のルパンがいました。
★堀内 良かったです。ほっとしました。
▼記者 どこまで似せようか、みたいな葛藤はありましたか?
★堀内 峰不二子が初めて偽ルパンと会った時、声を聞いても別人と分からないという描写があったので、最初はとにかく似せようとしたんです。でも、全然オッケーが出ない。似せようとしすぎて「作り物」になっちゃったんだと思います。そもそも僕に栗田さんの軽妙さみたいな味はないのに、変に努力して出そうとしたから深みにはまっちゃって。下手にルパンのふりをするんじゃなくて、「偽ルパン」という役そのものを演じればいいんだというところに行き着くまで、結構かかりました。
▼記者 さかのぼると栗田さん自身も、初代ルパン役の山田康雄さんの物まねをしていた縁で、山田さんの急逝を受けて2代目に起用されたという経歴をお持ちです。
●栗田 僕は逆に、まねはできても演じるってことができなかった。物まねって特徴をつかむのが大事だから、特徴が出やすいところ、例えば(おどけて)「ふ~じこちゃ~ん」とか、逆に(すごんで)「てめえふざけんじゃねえぞ」とか、極端なせりふはできる。でも、それ以外の真ん中の部分、普通の演技ができないんです。アニメ1本の中に、両極端のせりふは1割かそこら。残りの8割5部は「普通」で、その「普通」を山田さんがどうやってたのか、全然分からなくて苦労しました。
【(2)暗くて悪い「もう一つのルパン」】
▼記者 小池健監督が手がける「LUPIN THE IIIRD」シリーズは、従来のコミカルなアニメ版ルパンとは異なるダークでシリアスな作風が特徴です。
●栗田 この世界観を作ったのは峰不二子なんです。2011年に不二子の声優が沢城(みゆき)さんに代わって、増山(江威子、先代の不二子役)さんとは全く違う、現代的な不二子像を出してきた。そこで山本沙代さんという女性監督が沢城さんと組んで、女性が憧れる不二子の物語を作ろうと。
▼記者 12年のアニメ「LUPIN the Third 峰不二子という女」ですね。深夜帯に放送され、バイオレンスかつアダルトなテイストが話題となりました。
●栗田 小池監督はその世界観を引き継いで、ハードボイルドな物語の中でルパンたちの違う顔を引き出してきた。ルパンの演技もだいぶ変わりました。最初は「こんな暗くて悪いルパンでいいのかな」って不安もありましたけど、今ではこれも立派な「もう一つのルパン」だと思っています。
▼記者 沢城さんと同時に五ェ門役の浪川大輔さん、銭形役の山寺宏一さんが、21年には次元役の大塚明夫さんがそれぞれ先代から役を引き継ぎましたから、皆さんにとってもこのシリーズが「役を自分のものにする」一つの機会だったかもしれません。
●栗田 明夫さんはまだ小林(清志、先代の次元役)さんに寄せようとしてますよ。自分だってレジェンドと言われる人が、必死で小林さんの芝居を探ってて…ぐっときちゃった。でも、いつか明夫さんの次元になる日が来る。それは悪いことじゃないと思ってます。
▼記者 今作では、銭形とルパンの間に一種の信頼関係のようなものが芽生えます。
●栗田 それも賢雄さん演じる偽ルパンのおかげです。泥棒より悪いルパンを何とかしなきゃという思いが共通の目的になって、2人の間に初めて通じるものができた。
▼記者 元々、このシリーズのルパンは銭形との間に距離があって、呼び方も「とっつぁん」ではなく「銭形」なんですよね。
●栗田 そうそう。「ふ~じこちゃ~ん」も言わないよ。「不二子」って呼び捨てにする。
★堀内 今回「あらら~」は言ったよね。
●栗田 言ったっけ?
★堀内 言った言った。「ここでいつものルパンが出てくるんだ」って思ったもん。
●栗田 でも、いつもの「あらら~」とは微妙に違うと思うよ。比べてみてください。
【(3)名人芸は盗めない】
▼記者 もしも自分の偽物が現れたらどうしますか?
★堀内 世の中には自分にそっくりな人間が3人いるんでしたっけ? でも、栗田さんはいいよね。もし俺が栗田さんの顔そっくりになったとしても、物まねやれって言われたら一発でバレちゃう。
●栗田 賢さんの偽物だって吹き替えやらせれば気付くよ。声そのものはね、今ならそれこそAIで作れると思うんです。でも、芝居に必要な距離感とか、駆け引きとか、味とか、そういうものは機械じゃ出せない。
★堀内 ニュースを読み上げるとかなら、機械でもできるかもしれませんけどね。例えば語尾の微妙な上げ下げとか、まねしようとしてもできない。表現の世界にはそういう、誰にも盗めない名人芸みたいなものが絶対にありますよ。この作品で言えば、小池監督の絵(作画)もそうですよね。CGを使わないで、とにかく全部、手で描くんだって。
●栗田 びっくりだよね。例えば野球場のスタンドを描くとして、今なら前の方を何人か書いて、後はCGで増やせば簡単にできるじゃないですか。なのに小池さんは全部描く。何百人、何千人、この人は笑ってる、この人は子どもを抱いてる…。全部描いて(スタッフに)「こんな感じでお願いします」って言うんですって。周りは大変ですよ(笑)。
★堀内 それだけの価値はあると思いますよ。出来上がり見て「なんて心に入ってくる絵なんだろう」って思ったから。
●栗田 ただ、時間がかかるんだよね(笑)。前作(2019年公開の劇場版「LUPIN THE IIIRD 峰不二子の嘘」)から6年も空いちゃった。
★堀内 長かったね(笑)。僕らも収録から5年待ってますから。
▼記者 この作品と、続く劇場版「LUPIN THE IIIRD 不死身の血族」(6月27日公開)で、「小池ルパン」シリーズがいよいよ大詰めを迎えます。
●栗田 過去の作品にちりばめられていたピースがつながって、一つの壮大なストーリーとして完成します。まずは「銭形と2人のルパン」を配信で見て、最後は劇場で見届けてほしいです。
★堀内 僕としては「銭形と2人のルパン」も劇場でかけてほしいな(笑)。
●栗田 だよね~(笑)。
「LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン」は6月20日から配信。アマゾンプライムビデオ、アニメ放題、FOD、dアニメストア、DMM TV、バンダイチャンネル、Hulu、Lemino、U―NEXT、WOWOWオンデマンドなどで視聴可能
(取材・文=共同通信 高田麻美)