日本のミステリーの父とされる江戸川乱歩が、1965年に70歳で亡くなるまで約30年暮らした邸宅が東京・池袋の立教大に残されている。改修工事を終えてリニューアルオープンした“ミステリーの聖地”を訪ね、作品世界の一端に触れた。
JR池袋駅西口から徒歩10分弱。立教通りの先に、ツタに覆われた立教大のシンボル、モリス館が現れた。談笑する学生たちを眺めつつ路地に入ると「旧江戸川乱歩邸」があった。月水金に入場無料で見学できる。
真新しいタイルが貼られた洋館に入ると、新設の展示室に自筆年譜があった。文学館の定番資料だが、乱歩のそれは、生まれてから47歳までの「住居」「職業」「趣味の仕事」などが方眼紙にびっしり書き込まれている。「記録魔」だった乱歩らしい興味深い資料だ。
池袋に住み始めたのは34年。戦時下は探偵小説発表の場がなく、地域活動にいそしんだという。野菜類の配給記録を細かく書き込んだ町会の帳面も展示され、生活者としての側面もよく分かる。
探偵小説の原書や医学などの専門書を収めた土蔵は、扉からほの暗い室内をのぞくと、まるで乱歩の作品世界。作家仲間が本を借りに来たといい、立教大の杉本佳奈助教は「乱歩自身が図書館のように貸し出しカードを作っていた」と話す。
仲間を結集し、日本探偵作家クラブ(現・日本推理作家協会)を設立した乱歩。孫の平井憲太郎さん(74)は「祖父には、この家を開かれた場所にしてミステリーの普及に努めたいという思いがあった」と述べ、リニューアルを喜んだ。
乱歩が愛した土蔵を後に、池袋駅を挟んだ反対側の東口へ。2016年にリニューアルオープンした南池袋公園は青々とした芝生が目を癒やす人気スポット。「サンシャイン60」を見上げつつ、園内のカフェレストランでコーヒーをテイクアウト。ほっと一息ついた。
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