皆さんは、オリオン通りのすぐ近くにあった老舗のおでん屋さん「のんき」をご存じですか? 2018年に惜しまれつつ閉店しましたが、この春、文化交流拠点「人と文化が集う場所 のんき」として生まれ変わりました。再オープンまでには、紆余(うよ)曲折もあったみたい。“釜川界隈(かいわい)”が大好きな元まちなか支局員・ムトーが探ってきました。

改装前には紆余曲折も
おでん屋「のんき」は、大正時代に創業。店主の東喜八郎(あずまきはちろう)さん夫妻が手間暇かけて仕込んだおでんを味わおうと、連日多くの宮っ子たちでにぎわっていたという。
その一人、まちなか支局長ミワリーの印象に残っているのが、お店のシンボルだった木製の大きなカウンター。宇都宮屋台横丁ができるまではカウンタースタイルのお店は少なかったようで、「おいしそうなおでんを眺めながら、カウンター越しに『これ、ください』と声をかけて取ってもらったなあ」と懐かしそう。
閉店後、店舗兼住宅は一時空き家に。やむなく駐車場にするため、建物を解体する準備を進めていた。そこに待ったをかけたのが、釜川周辺エリアのまちづくりに取り組む「カマクリ協議会」だ。同協議会の構成団体「釜川から育む会」代表の中村周(なかむらしゅう)さん(37)は、「新しいものが生まれる場所を手がけたい」と地域住民とクリエーターが集う場にするプロジェクトを提案。中村さんの思いに共感した土地と建物を所有していた娘は解体を取りやめ、文化交流拠点に改装することにした。
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今月中旬、「のんき」を訪ねた。中村さんによると、おでん屋時代の古き良き雰囲気を残すため外観はほとんど手を付けず、壁材などの一部はおでん屋のものを活用したという。

入り口付近では二つの飲食店が開店準備に追われていた。そのうち自家栽培野菜と和の食材を使ったフレンチとナチュールワイン(自然派ワイン)が楽しめるレストラン「音杢(おともく)」には、おでん屋のシンボルだったあのカウンターが!

店主の鈴木秀彦(すずきひでひこ)さん(44)は、もともと江野町で「ビストロ グランジュテ」を営んできた。移転を考えていたタイミングで今回のプロジェクトを教えてもらったそうで、「最初の店舗を構える時に釜川沿いの物件を探していた。時間はかかったけれど、出店できてうれしい」と笑う。
のんきから引き継いだカウンターは1カ月ほどかけて丁寧に磨き上げ、新しいお店のシンボルになった。鈴木さんは「古いものに価値を見い出して新しいものを手がける、という考え方に引かれた。釜川の雰囲気に合うような、お客さまがゆっくりできる空間にしたい」と語った。
「おでん屋ののんきは格式のある、大人のお店だった」と振り返るのは、釜川プロムナード整備協議会の広瀬一郎(ひろせいちろう)会長(72)。文化交流拠点になったことについて「さまざまな人が集い、次のまちづくりに関わる人が育つ場になってほしい」とエールを送った。

このほか有料で本棚を借りて小さな本屋が開ける「本棚オーナー」や、クリエーターが中長期滞在できる施設も備えている。生まれ変わった「のんき」からは、どのようなものが生まれるのか-。期待は膨らむばかりだ。