左から菅井きん、左とん平、浜木綿子(東宝演劇部提供)

浜木綿子=東京都千代田区の帝国劇場

10回続きの(10完)

 左から菅井きん、左とん平、浜木綿子(東宝演劇部提供) 浜木綿子=東京都千代田区の帝国劇場 10回続きの(10完)

 舞台、映像で約70年にわたり、主演し続けてきた俳優・浜木綿子。開場から舞台に立つ東京・日比谷の2代目帝国劇場は建て替えのため2月末に幕を閉じた。浜の航跡を人との出会いを軸にたどる。

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 「帝国劇場は品格があって日本一といっても過言ではない劇場ですよね。上手から下手、下手から上手へと泳ぎまわるのが好きでした。出していただいたことに感謝しかありません」と浜木綿子は2月末で建て替えのため閉場した思い出深い劇場を振り返る。

 代表作の「売らいでか! 亭主売ります」と「人生は、ガタゴト列車に乗って…」は帝劇でも上演された。

 前者の主人公は夫を浮気相手に売って自立する。1968年の初演以来、再演がなかったのを左とん平(2018年死去)の勧めで再演し「約550回夫を売り飛ばしました」と浜。後者は89年に初演。作家、井上ひさしの母、マスがモデルで、3人の息子を抱えて奮闘する姿が印象的だ。

 いずれも逆境でも前向きな主人公をユーモラスに描く。両作に出演し、浜を尊敬して「先生」と呼ぶ加藤茶は「先生は相手によって演技を変えられます。とん平さんと作り出す間は絶妙でした」と話す。

 浜は「喜劇はその日によって違うお客さまの様子を感じ取りながら、相手役との呼吸でせりふの間や高低を微妙に変えます。それが醍醐味でもあります。とんちゃん(左)はすぐに感じて受け止めてくれました。『浜ちゃん、喜劇うまくなったね。俺のおかげだよ』と『売らいでか!』の時に褒められましたよ」。

 力を尽くしてきた商業演劇の魅力を次のように語る。「お客さまとの心の距離が近いのが良さ。分かりやすく、温かく、おもしろく、涙あり笑いありで華やかさも欲しいですね」。その演技は観客、共演者の記憶にも深く刻み込まれている。(小玉祥子・演劇評論家)

 【略歴】こだま・しょうこ 1960年、東京生まれ。全国紙演劇担当を経て演劇評論家に。主な著書に「艶やかに 尾上菊五郎聞き書き」「完本 中村吉右衛門」など。