舞台、映像で約70年にわたり、主演し続けてきた俳優・浜木綿子。開場から舞台に立つ東京・日比谷の2代目帝国劇場は建て替えのため2月末に幕を閉じた。浜の航跡を人との出会いを軸にたどる。
× ×
浜木綿子と三代目市川猿之助(二代目猿翁)の間には1965年12月7日に長男(俳優の香川照之)が誕生した。「専業主婦を夢見ましたが、猿之助さんに『女優として成長してほしい』と言われて菊田一夫先生に『これからもよろしくお願いします』と伝えました」
だが菊田は「君は結婚した女優で魅力は半減だから、いい役はないよ」と言い放った。「悲しくてズキンと来ましたが、『それでもいいです』とお答えしました」
66年9月の新帝国劇場開場披露に出演。同11月3日開幕の「風と共に去りぬ 第1部」(菊田脚色・演出)で演じたレット・バトラーの愛人、ベル・ワトリングは登場の度に拍手が起きる好評ぶりであった。
67年6月からの「風と共に去りぬ 第2部完結篇」も同役で続投。だがその頃には猿之助から離婚話が持ち出されており、理由が分からないまま自宅で夫の帰りを待った。
「バトラーとの別れの場面が私生活と重なって、悲しみを抑えきれなくなってお客さまに背を向け、カウンターで号泣してしまいました。それが評判で、しばらくは『背中の芝居をしてくれますか』と演出家にも求められ、『背中の女優』と言われるようになりました」
68年1、2月の「風と共に去りぬ 総集篇」の最中に離婚成立。「この道を命懸けで生きよう。息子のために女優として尊敬される部分をつくろうと決めたんです。第二の人生の始まりでした」
2012年、照之は九代目市川中車、その長男の政明は五代目市川団子を襲名し、歌舞伎界入り。21歳の団子にとって浜は「女優というより公演初日と千秋楽に励ましのメールをくれるバアバ」だそうだ。(小玉祥子・演劇評論家)
※10回連載の8回目です。次回は1週間後にUPします。
【略歴】こだま・しょうこ 1960年、東京生まれ。全国紙演劇担当を経て演劇評論家に。主な著書に「艶やかに 尾上菊五郎聞き書き」「完本 中村吉右衛門」など。