違法な長時間労働を強いる事業場が、県内でも後を絶たない。栃木労働局が昨年度、長時間労働が疑われる399事業場を対象に実施した監督指導結果によると、180事業場で違法残業が確認された。このうち115事業場では「過労死ライン」とされる月に80時間を超える時間外・休日労働があった。
違法残業が確認された事業場の割合は45・1%で、全国平均をわずかに上回った。問題は月80時間超えの事業場が63・9%に達し、全国平均を15ポイントも上回っていたことである。労働者の命に関わる問題だ。使用者は深刻に受け止め、過労死防止対策を急がなければならない。
違法残業をさせていた180事業場の業種の内訳は、多い順に接客娯楽業43、製造業40、運輸交通業37など。人手不足が指摘される業界で特に多い。
過労死ラインを超えた残業をさせていた115事業場のうち、月100時間以上は75事業場(41・7%)、月150時間を超えたのは24事業場(13・3%)あった。到底容認できるものではない。
月100時間超の違法残業をさせていた事業場は、前年よりも増えている、背景には新型コロナウイルスの収束がある。同局は「社会活動が正常化したことで、人手不足が深刻化したことが一因にある」としている。
たとえそうだとしても、人手不足は全国どこでも似たような状況にある。本県で過労死レベルの事業場が多い理由にはならない。
長時間労働は管理者が部下の時間外労働の状況を把握していないなど、使用者側に問題があることが多い。特定の労働者に負荷が偏らないよう、使用者は業務量の調整に配慮すべきだろう。
デジタル技術の活用も労働時間の削減につながる可能性がある。厚生労働省によると、ある建設事業者ではスマートフォンによるオンライン映像を活用した遠隔臨場システムを導入したことで、職員の移動や待機時間の削減につながったという。
過労死等防止対策推進法の成立から今年で10年になる。しかし過労死ゼロへの道は遠い。脳・心臓疾患の労災認定は、発症前2~6カ月に月80時間以上の労働が目安の一つになっており、それが「過労死ライン」と呼ばれる。使用者は肝に銘じるべきだ。