出産時の痛みを麻酔で和らげる「無痛分娩(ぶんべん)」を希望する妊婦が県内でも増えている。総分娩に占める割合は4%台だが、この4年で倍増している。しかし、関東地区で比較すると割合は最も低い。無痛分娩に重要な役割を担う麻酔科医の不足が原因とされ、本県での出産環境が妊婦のニーズに応えられていない可能性がある。

 人口減少問題の克服を掲げた県のとちぎ創生15戦略の中に「とちぎで結婚、妊娠・出産、子育ての希望をかなえる」との基本目標がある。無痛分娩は出産方法の選択肢の一つだが、医療提供側の態勢整備を支援する方策検討や妊婦側への助成制度新設などが、県の戦略の基本目標に合致するかどうか検討すべきだ。

 無痛分娩は、出産時に妊婦の負担が少なく、産後の回復も早いとされる。一方で、出産時に吸引器具や陣痛を促す薬を使う頻度が高くなる傾向があり、リスクも伴う。

 県産婦人科医会によると、2019年の無痛分娩数は304件で、総分娩に占める割合は2・08%だった。その後は年々増加を続け23年は563件となり、占める割合も4・95%と倍になった。妊婦のニーズが現れているとみるべきだろう。

 全国的に件数、割合とも右肩上がりとなっている。日本産婦人科医会の調査によると、占める割合は18年が5・2%だったが、23年は11・6%に増加している。関東では全国最高の東京が約30%、神奈川と千葉は約20%、埼玉や群馬は約15%。5%超の茨城と本県が、大きく離れた数字となっている。

 実施割合の差は、麻酔科医の偏在が影響しているとみられる。無痛分娩は、出産中、脊髄を守る硬膜の外側に背中から細い管で麻酔薬を入れる「硬膜外鎮痛法」が一般的だ。大阪府では麻酔の効き具合などの確認を怠ったため、出産した女性が死亡したとして、運営法人側が多額の和解金を支払ったケースもある。つまり無痛分娩には、麻酔科医が重要な役割を担うため、麻酔科医が比較的少ないとされる本県では、実施率が低くなっているとみられる。

 東京都の小池百合子(こいけゆりこ)知事は、助成制度新設で無痛分娩をさらに推進させる方針を打ち出している。本県でも、妊婦の希望にかなう出産環境を整える方策を検討する必要がある。