軽症にもかかわらず、タクシー代わりに救急車を利用する人が後を絶たない。命に関わる重篤な患者の診療に、支障を来しかねない。この対策として救急車で搬送され入院に至らなかった軽症患者から、特別料金を徴収する動きが浮上している。
救急搬送の実質的な一部有料化である。県内では小山市の新小山市民病院が時間外の診療に限り、10月から運用を始めた。限られた医療資源を有効活用するための苦肉の策であろう。
だが、真に救急搬送を必要としている患者のブレーキになっては本末転倒である。他の病院が導入するに当たっては、慎重な判断と患者への丁寧な説明を求めたい。
休日や夜間に入院を伴わない軽症患者が救急外来を受診すると、病院は保険診療とは別に特別料金として7700円の「時間外選定医療費」を徴収することができる。新小山市民病院によると、救急搬送以外の軽症患者からは数年前から特別料金を徴収してきた。しかし「救急車で搬送されれば徴収されない」といった考えが広がり、議論を重ねて今回の運用開始に至った。
同病院の救急外来患者は1カ月平均約700人。このうち半数は救急搬送という。制度の運用開始に際し参考にしたのは、三重県松阪市内の基幹3病院が6月から始めた初診時選定医療費の徴収だった。診療時間を問わず、救急搬送された入院を伴わない軽症患者から7700円の初診時選定医療費を徴収した結果、制度運用前より救急出動件数が平均22%減少したという。
救急車の安易な利用に歯止めをかけるのに、一定の成果があったと認められる。12月2日からは茨城県内の一般病床200床以上の22病院で、松阪市と同様の制度運用が一斉に始まる。注目されるのは、県が制度導入のまとめ役を担っていたことである。隣県の試みを注視し、今後の参考とすべきだろう。
本県でも救急医療の有識者らで構成する検討委員会で先月、救急搬送の実質有料化について議論された。県によると、現時点では賛否両論あるという。
県内の救急搬送人員は増加傾向にあり、年間8万人弱の約半数は軽症患者である。抑制策が必要なことは言うまでもないが、実質有料化につながる議論は、県民に見える形で進めてもらいたい。