東京を代表するランドマーク「虎ノ門ヒルズ森タワー」(東京都港区)。オフィスビル内のアトリウムには、広々とした吹き抜けに背を伸ばす竹の姿がある。自動ドアから吹き込む風に揺らぐ緑は、忙しい都会の空間に爽やかな癒やしを与えてくれる。

 ビルや駅など、都心でよく目にする竹植栽。その9割以上が、宇都宮市の若山農場で育った竹だ。

 森タワーの設計を担当した森ビル設計部の山口博喜(やまぐちひろき)さん(74)と菊田宏志(きくたひろし)さん(59)は、垂直方向に高い空間と、背が高く細くて繊細な竹の親和性が導入の決め手だったと説明する。

若山農場の竹が植栽されている虎ノ門ヒルズ森タワーのアトリウム

 ただ、雨風がなく空調で年間の温度変化が乏しいなど、竹にとって屋内は過酷な環境だ。同社は別施設でも導入実績があり生育の難しさを知っているため、当初は手入れしやすい常緑樹の植栽を検討したという。

 それでも竹を選んだ山口さんは「素材としてシンプル。スマートで都市的でもある」と語る。若山農場を視察し、生育環境も確認。「竹への誇りがあり、信頼できる」と評価した。

 森タワーの竹は、若山農場の独自品種・姫曙孟宗竹(ひめあけぼのもうそうちく)だ。一般的な品種より背が低く、都心部や屋内といった狭い空間にも調和する。元は小さいタケノコの需要に応えるため改良したものだが、今では竹植栽の代表格となっている。

虎ノ門ヒルズのキャラクター「トラのもん」のオブジェと若山農場の竹

 若山農場の若山太郎(わかやまたろう)代表(53)は、日本における竹植栽の第一人者でもある。農場を継ぐ前、造園会社に勤めていた頃に手掛けた幕張新都心(千葉県)の植栽で注目を集めた。

 きっかけは研修で訪れた米マンハッタン。オフィスに映える竹林と、傍らでコーヒーをたしなむニューヨーカーの姿に衝撃を受けた。

 日本で試みたが、当時は竹が弱ることを防ぐため、剪定(せんてい)して高さを抑えるのが常識だった。それを覆したのが、土まで徹底的に管理し、根が強く育った家業の竹。剪定せずに、本来の美しさを損なわない植栽を実現した。

 若山さんは「竹は、無機質で幾何学的なビル群のような建築によく合う。多くの人に好きになってほしい」と話す。清涼感、葉から漏れる光、風に擦れる「ささ鳴り」の音。若山さんの「原風景」は、都心の景観を彩っている。

◆若山農場 宇都宮市北部で親子3代、100年以上にわたり、タケノコや栗を生産している。竹林は21ヘクタールに及び、20品種以上、約10万本の竹を栽培。近年は映画やCMのロケ地としても話題になっており、竹林散策などの観光を楽しむこともできる。