東京都内を歩いていると、ふと故郷を思い出すことがある。住宅街の石塀、ビルの内壁。宇都宮市産の大谷石は都内でも、日常の風景に溶け込んでいる。

 その大谷石の名を全国に知らしめたのは、近代建築の三大巨匠の1人、米国人建築家フランク・ロイド・ライトが手掛けた帝国ホテル旧本館「ライト館」だ。

 平等院鳳凰堂から着想を得たとされる左右対称の構造で、柱や内装の随所に大谷石を採用。独創的なデザインは「東洋の宝石」と称され、世界の著名人からも親しまれた。

 1967年の建て替えに伴い、愛知県に移築された正面玄関以外は解体となった。都内では現在、帝国ホテルの中で隠れ家のようにたたずむ「オールドインペリアルバー」だけがライト館の面影を残している。

オールドインペリアルバーに移築されているライト館の大谷石や壁画

 バーに足を踏み入れると、店内は暖色系の落ち着いた明かりに包まれ、最上級のクラシカルな空間が広がっていた。ライト館の大谷石が移築してあるのはバーの最奥部。石の「ミソ」が消えていることからも、長い年月がうかがえる。

 ライトがデザインした照明や椅子、床に施された幾何学模様は異国情緒を感じさせ、大谷石やテラコッタ(素焼きれんが)との調和が美しい。帝国ホテル広報課長の照井修吾(てるいしゅうご)さん(44)は「大谷石とテラコッタはライト館の象徴です」と説明してくれた。

 照井さんによると、ライトが車で走っているときに「これだ!」と指さしたのが大谷石だったとか。材質や機能にこだわったライト館の建設は「工期2倍、費用7倍」だったといい、経営陣との衝突も生まれた。

インペリアルタイムズにあるライト館の柱のレプリカ。大谷石の彫刻やテラコッタも再現している

 着工から4年後の1923年9月1日、開館式当日に関東大震災が発生。被害が小さかったことで、耐火・耐震性能も世界に認められた。

 2017年には、ライトの生誕150周年を記念した展示スペース「インペリアルタイムズ」がホテルメインロビーにオープン。大谷石を使ったライト館の柱を再現してあり、ホテルの貴重な史料も見られる。

 帝国ホテルは24年度、老朽化に伴う建て替えに着手する。大谷石の使用は未定だが、コンセプトとして「東洋の宝石」を継承するという。「ライト館はレガシーです」と照井さん。世界に誇る名門ホテルの歴史は、大谷石なしに語れない。

◆大谷石 宇都宮市大谷町付近に分布する軽石凝灰岩の石材名。軽くて柔らかいため加工がしやすく、耐火性にも優れている。「ミソ」と呼ばれる黒茶色の斑点模様が特徴。明治時代には建材として関東を中心に広く使用された。