その人らしく生ききる。専門職らがその意義を訴え続け、医療福祉のあるべき姿を考えてきた「在宅ケアネットワーク栃木」が発足から30年を迎えた。県内で年間約2万5千人が亡くなる超高齢・多死社会である。草の根運動として続いてきたネットワークのさらなる歩みに期待したい。
ネットワークが発足した1996年当時は今の在宅医療の黎明(れいめい)期。「家で医療が受けられるのか」と懐疑的な見方も強かった。心身の苦痛を緩和し、その人に寄り添って穏やかに過ごせるケアの実現を目指した医師らによる活動だった。
以来、毎年2月11日、自治医大で市民を含め数百人が集う大会を開催。多職種連携、生きることに直結する食べることの重要性、「ウィズコロナ時代」の社会的処方など時宜を得たテーマを掲げた。在宅ケアを実践し、大会で知見を共有して市民の意識変容を促した意義は大きい。
さまざまな法や制度が整備されたこともあり、状況は変わった。在宅医療は通院、入院に並ぶ「第三の医療」として欠かせなくなっている。
自宅や入所施設で亡くなった県内在住者は2016年の21%から近年は30%に達している。本県の在宅療養支援診療所は約150カ所、訪問看護ステーションは約220カ所に増えた。ただ、所在が都市部に偏っており、県などは改善に取り組んでほしい。
2025年に団塊世代が全て75歳以上になり、40年ごろまで高齢者は増える。「尊厳を守るケア」をテーマとした今年のネットワークの大会である医師は「ターゲットは10年先に全国で1千万人を超える85歳以上」と指摘した。
この新たなステージに向け、生活や医療、介護の専門職らの連携を一層強めることが必要である。診療、介護報酬の在り方にも向き合わなければならない。大会で「末期認知症の緩和ケア」も発表された。必要性を増すこうした視点も取り入れたい。
ケアを受ける本人や家族も、どう生きるかを考えることが重要だ。県が普及に力を入れるACP(通称・人生会議)を試してはどうか。人生最終章のケアを話し合い、意思を共有する。それは生を豊かにするプロセスでもある。
思考を深める時、現場に根ざした在宅ケアネットワーク栃木の活動から学べることも多いだろう。
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