使い古したぼろぼろのボールには、お金に代えられない価値があった。

 本県を含む関東地方や福島県などの高校野球部で7~8月ごろ、大量の野球道具が盗まれた事件。

 「あれだけ大事にしてきたのに」。800個以上の野球ボールが被害に遭った宇都宮白楊高での取材。野球部監督を務める長竹志郎(ながたけしろう)教諭(29)は、道具が盗まれた部室を見つめ、悔しそうにつぶやいた。

 打撃練習用のボールなどを入れたかご六つが盗まれた。表面がすり減り、革が剥がれかけたボールばかり。「私立高ほど潤沢なお金はない」。糸がほつれるたびマネジャーらが手縫いし、一つ一つ長く使ってきた。新品の練習球は1個約500円。なかなか大規模な買い替えはできなかった。

 被害を免れ、部室内に残ったボールを見せてもらった。拙くも懸命に縫い直した跡。道具に対する深い愛着が伝わってきた。「ぼろぼろのボール」は彼らが野球に向き合う真摯(しんし)な姿勢の表れだと感じた。

 以前は練習後のグラウンドにボールが放置されているなど、道具管理の不徹底もあったという。「部活は教育。野球を通じ、人としての成長を」。長竹教諭は事あるごとに注意し、徐々にチーム内に道具を大切にする心が根付いていった。その中で事件は起きた。

 「返してほしい」。部員の言葉が今も耳に残る。事件は、道具への感謝を重んじる部員らの心も傷付けた。被害額だけでは測れない窃盗の悪質さを知った。