
最大容量120キロリットルの巨大なタンクが林立し、一升瓶のほかパック酒の充填ラインも備える日本酒製造の北関酒造(栃木市田村町)。普通酒を主体とし、圧倒的な生産量で県内酒造業界に存在感を示している。一方、昨年の世界最大級の日本酒コンテスト「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)SAKE部門」の普通酒部門で最高賞に次ぐ「栃木トロフィー」と、購入しやすい価格ながらも価値の高い酒に与えられる「グレートバリューサケ」を受賞するなど、手頃な価格の酒を造る顔、おいしい酒を造る顔、そして積極的な輸出メーカーの顔を持つ日本酒蔵へと成長の歩みを速める。
北関酒造は1973年、鈴木酒造(旧藤岡町)、小田垣酒造(壬生町)、藤沢本店(旧岩舟町)の酒蔵3社が合併して設立された。越後杜氏(とうじ)から下野杜氏へと技術と伝統を継承し、「北冠は毎日がうまい。」をキャッチフレーズに品質の向上に努めている。89年にコンピューター管理システムを導入し、麹(こうじ)や醪(もろみ)の発酵状況を管理することで、安定した質の高い日本酒の通年醸造を実現している。
正面に長屋門を構えるなど歴史のある旧家のたたずまいが多い県内の酒蔵の中で、田んぼ中に高さ8~12メートルにおよぶ巨大な貯蔵・熟成タンク32基を含め大小約100基が並ぶ威容は、北関酒造が他の県内酒蔵と明らかに異なることを示す。多くの酒蔵は経営規模がそれほど大きくなく、普通酒造りをやめ、吟醸酒など特定名称酒造りに特化している蔵もある。しかし北関酒造は普通酒を主力製品に据え、輸出専用銘柄を含め1日約7200本のパック酒商品を充填する製造ラインなどが稼働する。
国税庁の「酒類製造業及び酒類卸売業の概況(2024年アンケート)」では、本県の売上数量(23年1~12月)が7599キロリットル。北関酒造の出荷数量(24年7月~25年6月)は約5200キロリットル。各集計の期間が異なるため単純に比較できないが、北関酒造の出荷数量(生産量)は県内全体の7割近くを占めるとみられる。鈴木誠人(すずき・まこと)社長は「日本酒需要が下がり続けているだけに他の蔵の製造量が減った分、当社の割合が以前より上がっているかもしれない。当社は家飲みのウエートが高く、新型コロナウイルス禍の時も需要が他社に比べ大きくは下がらなかった」と説明する。「今季は原料米価格が高騰して自蔵での造りを諦め、委託に切り替えた蔵の分が当社にも来ている」とも加えた。栃木県酒造業界でその役割がますます高まっていると言える。
同社の代表銘柄は「北冠」だ。「蔵の街」シリーズなどは大吟醸、純米大吟醸から純米酒までそろえ、豊富な特定名称酒でさまざまな嗜好に対応する。昨年は全国新酒鑑評会で6年ぶり6回目の金賞を受賞したほか、関東信越国税局酒類鑑評会の吟醸酒の部で優秀賞の県総代、栃木県清酒鑑評会の吟醸酒の部で県酒造組合会長賞に選ばれ、例年になく受賞が相次いだ。
普通酒は「鮮」のほかパック酒「北酒場」「鬼怒 鬼ころし」、輸出用のパック酒「ヨイトマケ」など多彩な商品をそろえる。「鮮」はIWCでトロフィーとグレートバリューサケをダブル受賞。特定名称酒に限らず、幅広い銘柄で高評価を受け、同社は量産と高品質を両立させる、一段高いステージに上がったと言っても過言ではなかろう。「鮮」は同社初のアルミ缶製品にもなり、国内外の販路開拓の先導役として期待も高まる。
輸出にも力を入れる。同社が輸出を本格化させたのは02年のサッカーワールドカップ日韓大会の後だ。韓国へは輸出量が年間千キロリットルに迫るなど日本からの輸出シェアが約40%に達した時もある。その後、日韓関係の悪化時期に止まった時もあったが、再び増えているという。16年当時、同社は国内日本酒メーカーの中でも輸出量が5番目に多く、本県自体も都道府県別で4位になった。19年には輸出取引で信頼性を高める食品安全認証「FSSC22000」を北関東の酒造会社で初めて取得した。こうした取り組みが商社や顧客からの評価を高めた。
同社は24酒造年度生産量の約12%に当たる約630キロリットルを18カ国に輸出している。輸出量が最も多いのが韓国だ。次いで欧州全体の日本酒荷揚げ拠点になっているオランダでは、現地のワイン会社と連携して日本酒の瓶詰めも行っている。3位はドイツ。親日的で日本料理店など業務用需要が多い。イスラエル、フランス、オーストラリアと続く。イスラエルは、日本酒業界でもいち早くユダヤ教の食事規定に適合した認証「コーシャ」を取得したことが大きい。
昨年7月には日本貿易振興機構(ジェトロ)が主催したウクライナの復興に向けた日本企業との商談会がウクライナのキーウで開かれ、鈴木社長が参加した。北関酒造は戦争前、ウクライナ市場は小さかったが、シェアがトップだったため、声が掛かった。鈴木社長は「ポーランドでウクライナ向けの日本酒を造ろうという話もあったが、戦争がいつ終わるのかが問題ですね」と話した。欧州ではボトリングで連携する会社からも小さな規模で酒造りをやらないかという話も出ていると言い、鈴木社長は「チャンスがあれば考えてみたい」と意欲を示している。
また昨年10月、農林水産省から輸出事業計画の認定を受けた。これまで海外の商談会などに出向いて販売促進、販路開拓を行ってきたが、動画をYoutubeにアップしたり、プロモーション媒体を変えたり、販促手段の再構築を図る。
鈴木社長によると、韓国焼酎「チャミスル」がNetfixに韓流ドラマが配信されるとき、ドラマの中に商品が置いてあり、世界市場を広げている。例えば、映画「将軍 SHOGUN」のようなドラマの中に北関酒造の酒を使ってもらえるよう仕掛けることも考えたいという。
鈴木社長は「愛飲してくれていた人も高齢化して飲まなくなってしまうことがある。若い方が日本酒を飲むシーン、スタイル、おしゃれな飲み方を提案するプロモーションが欠かせない」と強調する。
手頃な価格の酒を造る顔、おいしい酒を造る顔、積極的な輸出を展開する顔。この三つの強みを生かし、若者などにどう挑むのか、栃木県酒造業界の「雄」たる北関酒造の動向を注視したい。

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