挾間美帆

 インタビューに応じる挾間美帆

 インタビューに応じる挾間美帆

 グラミー賞ノミネート楽曲を収録したアルバム「Live Life This Day:Celebrating Thad Jones」

 挾間美帆(左)とDRBB((C) Nicolas Koch Futtrup)

 挾間美帆  インタビューに応じる挾間美帆  インタビューに応じる挾間美帆  グラミー賞ノミネート楽曲を収録したアルバム「Live Life This Day:Celebrating Thad Jones」  挾間美帆(左)とDRBB((C) Nicolas Koch Futtrup)

 アメリカの音楽界で最も栄誉ある第68回グラミー賞の最優秀インストゥルメンタル作曲賞に楽曲「Live Life This Day:Movement ☆(ローマ数字1)」がノミネートされたジャズ作曲家の挾間美帆。6年前の第62回グラミー賞でも主宰する楽団のアルバムが候補となっており、今回は2度目のノミネート。授賞式が2月1日(日本時間2日)に迫る中、拠点を置くニューヨークから公演で来日した挾間に、作品や活動について聞いた。(取材・文 共同通信=團奏帆)

 はざま・みほ 1986年、東京生まれ。デンマークラジオ・ビッグバンド(DRBB)首席指揮者。国立音楽大でクラシックの作曲、アメリカのマンハッタン音楽院大学院でジャズの作曲を学ぶ。第62回グラミー賞で「ダンサー・イン・ノーホエア」が最優秀大規模ジャズ・アンサンブル・アルバム部門にノミネート。これまで山下洋輔、東京フィルハーモニー交響楽団などに作曲作品を提供。坂本龍一、NHK交響楽団への編曲作品提供も。

(1)四つに分かれる職業

◆記者 ジャズ作曲家や編曲家、ディレクター、バンドリーダー、指揮者として多彩な活動をされていますね。

●挾間 職業は何?と聞かれた時には、四つに分かれると説明しています。

 第一にジャズ作曲家。委嘱された作品を作曲するというものです。「ジャズ作曲家」なので、ジャズのカテゴリー以外の方から委嘱された場合でも、ジャズの要素やリズムを必ず生かすよう心がけています。

 二つ目が編曲家ですね。アレンジャーと呼ばれるもので、もともとある曲をクライアントのイメージに沿うようお料理する仕事ですが、これはゲーム音楽や演歌などジャズ以外もたくさんやるようにしています。

 三つ目がディレクターの仕事です。コンサートをプロデュースしてディレクション、リハーサルし、本番では指揮もする…といった内容になります。

 最後がバンドリーダー。職業になっているかちょっと不安ですけれども、13人編成のジャズ室内楽団「m_unit」を主宰しています。その編成で作った曲や、楽団のためにアレンジした曲を演奏・録音しています。

(2)北欧のビッグバンドの指揮者に

◆記者 グラミー賞ノミネート曲が収録されたアルバム「Live Life This Day:Celebrating Thad Jones」は、デンマークラジオ・ビッグバンド(DRBB)とデンマーク放送交響楽団が共演し、ジャズトランペットの巨匠、サド・ジョーンズの墓碑銘を冠した作品。挾間さんが企画し指揮したコンサートの音源化です。

●挾間 2019年にDRBBの首席指揮者に就任しました。このビッグバンドは北欧で唯一の公共放送局のビッグバンド。日本で言うなら、NHKがビッグバンドを持っているような位置づけでしょうか。放送局「DR」にはビッグバンドに加え、交響楽団、混声合唱団と女声合唱団もあります。同じビル内で活動しているのですが、あまり楽団間の交流がなく、なかなか一緒に共演できる機会はつくりづらい。なので、就任して最初に伝えたのは「ぜひオーケストラと共演するプロジェクトをつくりたい」ということでした。

 コロナ禍もあり実現に時間がかかってしまったのですが、サド・ジョーンズの生誕100年にあたる2023年に、彼にささげる形でコンサートを企画・開催するチャンスが巡ってきました。

 サド・ジョーンズは、デンマークで晩年を過ごした素晴らしいアメリカ人のトランペッター、作曲家。デンマークでとても愛されていて、重要なアイコンです。「サド・ジョーンズ通り」という通りがあったり、お墓も歴代のデンマークの首相が眠るお墓の隣にあったりするんですよ。

◆記者 1970年代後半にはDRBBで首席指揮者をしていて、挾間さんの先輩にあたるそうです。

●挾間 そうですね。DRBBには1964年の創立から、私以外に7人の首席指揮者がいるんですけれども、サド・ジョーンズは、彼自身がデンマークに活動拠点を移す頃に首席指揮者を務めているんです。彼と共演経験のあるメンバーからは「彼がいなければ、今みたいにスイングしたり、ジャズに深い尊敬の念や理解を持って演奏したりすることはできていなかった。彼のおかげで鍛えられた」という感想を聞きます。

(3)がんじがらめが新鮮で

◆記者 アルバムにはサド・ジョーンズの曲を挾間さんが編曲したものと、挾間さんのオリジナル曲が収録されています。オリジナルの第1楽章がノミネート曲ですが、このコンセプトは?

●挾間 サド・ジョーンズの作品の特徴を取り入れられないかなと思ったんです。なので、アナリーゼ(楽曲分析)から始めました。曲って、和音とベースラインがメロディーを伴奏するようにできていると思うんですけれども、サド・ジョーンズの場合はメロディーの一つ一つの音に和音とベースが割り振られていて、すごく細かく、たくさんの音が一気に動くように作られていたんです。すごく新鮮で、自分ではなかなか使ったことのない作曲方法でした。

 ジャズといえばアドリブ。一人の奏者に頼って自由に演奏することが多いと思われがちな中で、一つ一つ音が決まっているサド・ジョーンズのスタイルは結構がんじがらめなんじゃないかと思ったりもして、すごく新鮮だったんです。

 それをまねするのはとても細かい作業ですごく難しいし、時間がかかるんですけれども、頑張ってまねしてみたというのと、どういう音の使い方をしているのか勉強して、その法則が私自身の癖のような音像とはちょっと違ったので、それをいっぱい使えるようにアイデアを練って作ったのが第1楽章です。

◆記者 コンセプトは難しそうですが、曲はとても華やかで、楽しく聴けました。

●挾間 そうですね。もちろん作り込んだところもあるんですけれども、アドリブをしてもらう場所も作りたかったので、トロンボーンとチューバにソロを委ねました。特にチューバはアドリブをとるには非常に珍しい楽器ではありますが、DRBBにはその名手がいて、彼にずっとアドリブをとってもらいたかったのになかなか機会がなかった。満を持して、チューバ奏者の彼と、素晴らしいトロンボーン奏者にもソロをとってもらえるようにしました。

 作り込んだところと、思いっきり委ねたところ。この二つを行ったり来たりできるようなシステムになっています。

(4)人を包み込むような音楽を

◆記者 第2楽章、第3楽章はいかがでしょう。

●挾間 第2楽章は、サド・ジョーンズの人柄を音楽で表すイメージです。私は彼の亡くなった数カ月後に生まれたので、会うことはかなわなかったのですが、過去にDRBBと共演した際のビデオを見せてもらったり、共演経験のあるメンバーから話をうかがったりしました。人柄のおおらかさや笑い方の豪快さ、人を包み込むような感じ…そういった印象を音楽で表しました。

 第1、2楽章を作っている過程で、サド・ジョーンズ自身が書いた「Live Life This Day」という曲が存在するということを初めて知りました。楽譜を早速取り寄せて、どういう曲なのか勉強してみたところ、人生をしみじみ振り返って輝きをもたらすような、美しく切ない感じのバラードだったんです。せっかくこの曲を見つけたので、何かしらの形で共作にできないかなと思いました。人生をたたえる応援歌、人生賛歌のような感じにしたいなと思って、曲調を思いっきりサンバ調に変えて、展開も盛り上がるようにしたのが、第3楽章です。

◆記者 だから作曲者が2人なんですね。

(5)ノミネート発表も知らず

◆記者 このアルバムは、挾間さんにとってどんな意味を持つ作品になりましたか?

●挾間 自分の持てる職業上の要素をふんだんに生かしたアルバムではあると思います。作曲もしましたし、編曲もしましたし、ディレクションもしましたし。先ほど説明した自分の四つの職業のうち、バンドリーダーというところだけが抜けていますが、それ以外の三つ全部使っています。このアルバムは私のプロジェクトなので、グラミー賞ノミネートで注目してもらえるのは、すごく光栄なことです。

◆記者 ノミネートの知らせを聞いた時にはどんな風に感じましたか?

●挾間 実は、発表日を全く知らずに自宅にいて…。友達から「おめでとう」とショートメッセージが届いて、何のことか全然分からなくて「?」と返したんです。そのぐらい本当に想像もしていなかったニュースだったので、びっくりしました。

 DRBBは素晴らしいバンドなので、彼らのためにも少しでも注目を集めるような成果が残せるといいなとは、ずっと思っていました。ホッとしたというのが最初の感想です。

◆記者 賞も楽しみですが、DRBBの今後も楽しみですね。

●挾間 DRBBは2024年のシーズンで60周年を迎えたので、記念に新しい作品集を作ることになり、最近そのレコーディングを終えたばかりなんです。60年間で私以外に7人の首席指揮者がいたので、7人それぞれの音楽的要素を勉強して、そこからインスピレーションを得て私が作曲した作品を収録しました。それをぜひ皆さんに聴いていただきたく、夏前に予定しているアルバムのリリースに向けて、しっかりミックスやマスタリングをしていい作品を作りたいなと思っています。作品を携えてデンマークツアーをするので、デンマークのジャズヒストリー60年を振り返って寄り添えるようなプロジェクトにしたいと思っています。

 そのアルバムを引っさげて日本でもツアーをしたいと今、画策しております! 今年の秋にできればいいなと準備しているところなので、実現した際には、ぜひコンサートに足を運んでいただきたいです。