東京都墨田区押上といえば、日本一高い建造物である東京スカイツリーがそびえる街だ。人気を集めるこの電波塔の近くに、芸事や絵画の世界で日本一とされた、名人たちに愛された寺がある。
都営地下鉄浅草線と東京メトロ半蔵門線の押上駅から東に徒歩数分で、庶民の信仰を集めた「妙見さま」こと、妙見山法性寺にたどり着く。
江戸時代、近くを流れる北十間川に小舟を浮かべて遊覧を楽しめたこの地は「柳島」と呼ばれる名所だった。絵師の葛飾北斎や歌川広重がこぞって描いた浮世絵は、寺務所2階の名画ギャラリーで目にできる。昔の柳島の華やぎはいかばかりだったか。
もう一人、ゆかりの深い人物が。江戸時代の歌舞伎役者、中村仲蔵だ。歌舞伎の演目「仮名手本忠臣蔵」の端役を任され、芸事上達の御利益で知られた法性寺で成功を祈願。果たして斬新な演出と演技を繰り出し、大評判に。
「よっ、日本一!」とのかけ声を、さぞや浴びたことだろう。この痛快な逸話は落語や講談、テレビドラマの形で伝えられてきた。令和の世になっても仲蔵をしのぶ参拝者が後を絶たない。
妙見さまから目と鼻の先の和菓子店でおむすびを買い、北へ向かって歩くこと約10分で高木神社に到着。高皇産霊神を祭るこの社は「おむすび神社」と呼ばれ、人々に親しまれている。日本一おなじみのファストフード、おむすびの聖地としてお参りする人が引きも切らない。買い求めておいた1個を本殿に向かってかざし、いただいてみた。霊験あらたかな味がしたのは気のせいかしらん。
押上のランドマーク、東京スカイツリーは高さ634メートルで、押上の至る所から間近に見られる。ことに北十間川の橋から見た眺めは格別で、老夫婦も若いカップルも幼稚園児たちも足を止め、見つめていた。心の中で叫んでいるはず―「よっ、日本一!」と。
【メモ】季節ごとに異なるライトアップの夜の東京スカイツリーも見応え十分。
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