県内の起業家を育て、事業の成長をサポートする一般社団法人「栃木イノベーションベース」(栃木IB、宇都宮市)が設立され、来月から本格始動する。上場企業の社長らを招いた講演会や会員らが事業について率直に語り合う場の開催、起業した先輩が「1対1」で助言・指導するメンタリングなどを行う。

 各府県で相次いで設立され、11月に発足した本県は全国で18番目のIBとなった。限定50人を上回る約80人が入会を希望しているという。地方から全国、全国から世界へと飛躍する起業家の輩出に期待するとともに、起業マインドの向上や地方創生を担う人材の育成にも努めてほしい。

 電子書籍取次大手「メデイアドゥ」を創業した藤田恭嗣(ふじたやすし)社長が2020年、地元徳島県で全国初のIBを設立した。11月に本県の設立記念式典で講演した藤田社長は「地方はこれまで行政、金融機関、メディアが大きな役割を担ってきた。ここに起業家が加わることで地域はさらに盛り上がる。IBは地方創生に絶対必要だ」と訴えた。

 メインの支援活動は、実績ある先輩起業家が「モデレーター」(司会・調整役)を務め経験や知識を共有し、横の連携も強化する「フォーラム」の開催である。本県では1チーム8人体制で実施する。1年間にわたり経営の実務面から家族との関係性まで深掘りし、会員と企業の成長に注力する。月1回で4~5時間を予定し、全員参加や秘密保持の厳守がルールという。

 帝国データバンク宇都宮支店によると、2022年4月末までの3年間に県内で新設された企業は3466社で全国21位、関東1都6県では最下位だった。起業マインドのさらなる底上げにも栃木IBが果たす役割は大きい。

 魅力ある企業が増えれば、県外に出た若者も戻ってくる。また少子高齢化や人口減少に伴う地方経済の低迷などに着目した起業家が地域に根差せば、課題解決や雇用の創出にもつながるだろう。活動を定着させるには、栃木IB自体が取り組みの意義を丁寧に説明し、実績と信頼を積み重ねていくことも欠かせない。

 初代会長の江田豊(えだゆたか)さん(44)は「『起業するなら栃木県』の風土を醸成し、売上高100億円の企業をまず10社つくる」と高い目標を掲げる。起業家が起業家を育てる新たな試みの今後を注視したい。