コラム1回目で紹介した栃木県職員有志による知的に味わう日本酒の会は、その後も趣向を凝らして続いている。12月初めには参加者がこれぞと思う日本酒を持ち寄って味わいを語り合う「持ち寄り会」が開かれた。単に味わうだけでなく、県産ナチュラルチーズとの相性を知るテイスティングの課題付きだ。

 参加者15人、うち7人が女性で、持ち寄られた日本酒は19種に上った。始めにC.P.A認定チーズプロフェッショナルで観光交流課の斎藤久恵(さいとう・ひさえ)さんが用意したチーズ工房「大田原ステーション」(大田原市)の三つのタイプ別チーズの特徴やマッチングの原則などを解説した。「原則はありますけど、ご自身の感性に従って、いい組み合わせを探してください」と言い添えてくれたので“普段着”で臨めた。

持ち寄り会で集まった19種の日本酒
持ち寄り会で集まった19種の日本酒
大田原チーズステーションの3タイプのナチュラルチーズ
大田原チーズステーションの3タイプのナチュラルチーズ

 乾杯酒は大人気の「飛露喜」で有名な廣木酒造本店(福島県会津坂下町)の地元向け銘柄「泉川」の大吟醸だ。持ち寄った男性職員は、栃木県の日本酒ファンからすれば飛露喜以上に希有な存在かもしれないと説明。「飛露喜との違いも語り合えれば」と、いきなりハードルの高いあいさつで始まったが、14人はこの日の日本酒をどんな理由で持ち寄ったのか、お酒の特徴を順々に語った。そこにはそれぞれの思いがあり、面白く、場が盛り上がった。

 学生時代、新潟県にいたという男性職員は、樋木酒造(新潟市)の「鶴の友」を選んだ。「新潟は淡麗辛口のイメージが強いが、この酒は結構、お米の甘味を感じる味わいがします。あまり県外に出さず、地元で消費してほしいという酒蔵なので、地元の酒店から送ってもらいました」と紹介した。

持ち寄り会の趣旨などを説明する堀越さん(中央)
持ち寄り会の趣旨などを説明する堀越さん(中央)

 haccoba(福島県南相馬市)の「はなうたホップス」を持ち寄った女性職員は「花酵母を使い、ドライホップスというクラフトビールの独自の仕込み方を組み合わせたお酒で、味が濃く、濃い味のチーズに合うかなと思って選びました」と思いを語った。「クラフト酒」という新興ジャンルの酒まで手を伸ばす若い感性に時代も感じた。

 男性職員は自身の地元の酒を紹介したいと渡邊佐平商店(日光市)の「清開 しぼりたてきざけ」を披露した。商品案内には生原酒ですので(グラスに)氷を浮かべても水っぽくならないとか、濃いなと思ったら水で薄めてくださいと書いてあり、「そんなストレートに物を言う酒蔵はいないと思うので、楽しさもあり、お持ちしました」と紹介した。

 花泉酒造(福島県南会津町)の「ロ万(ろまん)」を持参した外部参加の男性は「福島県出身なので友人や親戚がよく口にするお酒です。せっかくなら地元の酒で味わってほしい」とやはり地元推しだった。

持ち寄られた日本酒を語り合う参加者
持ち寄られた日本酒を語り合う参加者

 飯沼銘醸(栃木市)のお酒は2人が別々の「姿」を持ち寄った。「Flying SUGATA」を選んだ女性職員は「以前、県教育委員会で農業高整備に携わったことから、栃木農業高生が作った山田錦原料のお酒を持ってきた」と懐かしんだ。「愛国3号 無濾過生原酒」の外部男性は「近所の酒屋さんにチーズに合わせるといったら、ちょっと酸、キレのある、ガス感があるのもいいんじゃないかと薦めていただいた」と紹介した。

 木村酒造(秋田県湯沢市)の「バタフライエフェクト」を選んだ女性職員は「アルコール度数は低めですが、日本酒度、使用酵母とか全部書いてあり、お酒が『持って行け』と言っているように思え、選びました」とひらめいたという。「20歳を過ぎた娘が日本酒がおいしいと言い始め、家でちょっと飲み始めたばかり」という女性職員は「分からないのでパッケージを見て『これ絶対においしい』と思った」と手に取ったのが酒田酒造(山形県酒田市)の「上喜元」だった。頚城(くびき)酒造(新潟県上越市)の「越路乃紅梅」を選んだ女性職員は「瓶の色とワインっぽくないところ、しかも棚に『限定36本』とあり、全くのフィーリングで選んだ」と明かした。直感派のお酒選びでも案外芯を食っているのではと感心した。

持ち寄り酒の色などを確かめる女性職員
持ち寄り酒の色などを確かめる女性職員

 確信派の選定の口上には力が入る。清水清三郎商店(三重県鈴鹿市)の「作」を持ち寄った女性職員は「チーズに合わせるというと、やっぱり香りの高い酒、薫酒ということで選びました。特にきれいにして爽やかな味わいも特徴」と一押し。辻善兵衛商店(真岡市)の「桜川 大吟醸」を選んだ男性職員も「県内で一番好きな銘柄でして、全国新酒鑑評会11年連続で金賞を受賞しているが、知名度が低い。ぜひ飲んで知っていただきたい」と推した。

 また土田酒造(群馬県川場村)の完全無添加生酛造り「シン・ツチダ」が好きだという斎藤さんは「お酒には唯一無二、毎回違う味わいを楽しめると書いてある。日本酒もチーズも一期一会だと思っている。そういうのを堪能してほしい」と述べた。流石に奥深い。

土田酒造の「シン・ツチダ」への思いを語る斎藤さん
土田酒造の「シン・ツチダ」への思いを語る斎藤さん

 そして主催者で日本酒学講師などの資格を持つ、工業振興課の堀越毅(ほりこし・たけし)さんは新政酒造(秋田市)の「亜麻猫」と渡邉酒造(大田原市)の「貴醸酒」を用意した。「亜麻猫は白麹を使って少し酸っぱいようなお酒。限定販売なのでなかなか手に入りません」「貴醸酒は7年間、家の冷蔵庫に眠っていました。水の代わりに日本酒を使って仕込んだ酒で、熟成しており、チーズの濃い味に合うと思う」と紹介した。堀越さんのチョイスはいつも意味が込められており、新たな発見、勉強になることしきりだ。

新政酒造の「亜麻猫」を紹介する堀越さん
新政酒造の「亜麻猫」を紹介する堀越さん

 私は小林酒造(小山市)の「リザーブオーダーズ&アッサンブラージュ鳳凰美田」を持参した。品評会の主催者から審査を終えた出品酒を数本の瓶に混ぜて回収するが、この酒が意外とおいしいという話を以前聞き、気になっていた。混ぜ合わせるアッサンブラージュはワインの手法だが、おいしさをかけ算のように互いに引き立て合うともいわれる。小林酒造で初のアッサンブラージュ酒ということもあり、どんな酒なのか味わってみたかった。結果はこれまでに味わったことのない、ものすごく濃厚、重厚で、華やかな吟醸香が特徴の鳳凰美田も原料米違いの4種以上を合わせるとこんな味わいになるのかと、その変貌ぶりに驚いた。

 2時間半の会だったが、県内外の名酒、希少酒、薫酒、爽酒、醇酒、熟酒、クラフト酒という個性豊かな19種を一堂に味わえるなんて夢のようだった。皆さんもこんな趣向で日本酒の面白さを楽しんでみてはいかがでしょう。必ず発見と感動がありますよ。