「娘から『会いたい』と言ってくれる日が来ると信じている」。娘の話題になり、女性はぎゅっと拳を握り締めた=2015年2月3日午前(画像の一部を加工しています)

 

 国内最大の女子刑務所「栃木刑務所」(栃木市惣社町)が2028年4月に廃止される見通しとなった。今から10年前の2015年、下野新聞は記者が塀の中を取材したルポ企画「更正へ…償いの道 栃木・女子刑務所の現状」(全6回)を報道しました。受刑者の高齢化や国際化、再犯の増加など多様化する問題に迫った記事を通じて、栃木刑務所の役割を振り返ります。

 「人の命を奪ってしまいました。家族だった人です」

 2月上旬、栃木刑務所。色白で、ほっそりとした女性受刑者(31)の罪名は、殺人。「今も夢に見ることがある…」。人をあやめた7年前について、か細い声を絞り出した。

 結婚を機に夫の実家に移り住み、まな娘を授かった。夫の妹が実家に戻ってきた。

 同じ職場で、同い年だった義妹とは性格が合わず、毎日のように衝突していた。女性は人付き合いが苦手だった。一度、夫に相談したが「妹に失礼だろ」と返され、「自分が我慢すればいい」とストレスをため込んでいった。

 同居しておよそ1年、24歳の時だった。義妹が3歳の娘に手を上げている、と感じた。我慢が限界に達した。「心の中は殺意しかなかった。ずっと、そのことだけを考えていた」

 犯行直後の気持ちは「これで娘が無事でいられる。あー、これで自分も楽になれる」。

 事の重大さに気付いたのは逮捕されてから。警察官と話しているうちにわれに返った。

 ◇「死んでしまいたい」

 裁判で懲役10年の実刑判決が下され、栃木刑務所に収監された。

 最初はつらくて、毎日ずっと「死んでしまいたい」と思っていた。集団生活を重ねるうち、変化を感じ始めた。「生まれ育った環境が違う人たちと生活し、周りを見られるようになった」

 出所後を考え、美容師の職業訓練を受けた。同室だった別の受刑者に勧められたのがきっかけだ。取得した資格を生かし、介護現場で働きたいと思い描いている。一方で、不安もよぎる。

 「私みたいな人が働けるのか。実家に帰ると周りの目もあるし…。どこで新生活をスタートさせるか」

 ◇「殺人者だから…」

 償いの気持ちを込め、仏間で手を合わせている。「自己満足でしかないけど、そんなことしかできない」。目を潤ませてうつむき、言葉を詰まらせた。

 事件当時3歳だった娘は小学4年生。数年前に夫と離婚してから連絡は途絶えている。

 生きる支えは娘との再会だ。でも「娘は私のことを覚えていないし、殺人者だから、母親と思ってくれないだろう」。

 遠く離れた娘との間には、罪の大きさが立ちはだかっている。

   ◇    ◇

 国内最大の女子刑務所である栃木刑務所(栃木市惣社町)。60歳以上の受刑者が4人に1人となるなど高齢化が深刻化している。国際化、再犯の増加など問題は多様化し、手探りの対応が続く。現代社会の“縮図”とされる塀の中をルポする。

(記事は2015年3月17日掲載)