「小さき声に向き合う 障害者と放送 過去から未来へ」の出演者

 「テレビろう学校」(1961~1981年)

 「たのしいきょうしつ」(1973~1994年)より

 「バリバラ」

 「小さき声に向き合う 障害者と放送 過去から未来へ」の出演者  「テレビろう学校」(1961~1981年)  「たのしいきょうしつ」(1973~1994年)より  「バリバラ」

 テレビやラジオは障害者をどう描いてきたのか―。福祉バラエティー番組「バリバラ」をはじめユニークな番組を制作してきたNHK大阪放送局が、特番「小さき声に向き合う 障害者と放送 過去から未来へ」を12月5日午後10時から総合テレビ(関西地方のみ)で放送、「NHK ONE」で1週間見逃し配信する。

 特番が明らかにしたのは、(1)克服すべきもの、(2)不幸なもの、(3)頑張るもの、という3段階を経て、障害者が受け身的に取り上げられる対象から、自ら表現し、発進する存在へと変わっていく歴史だ。

 そもそもなぜ、NHKの中でも大阪放送局は福祉番組の制作に熱心だったのか。特番チーフ・プロデューサーの森下光泰さんは「草創期から子ども向け教育番組に力を入れたこと、また関西では先駆的な障害者福祉や当事者運動が盛んだったことがあると思います」と語る。

 記録にある最も古い障害者の出演は、放送開始翌年の1926年3月、ろう者の少女西川はま子さんだった。耳の聞こえない子どもが、口の動きから言葉を読み取り、自身も声を発する「口話法」の効果のデモンストレーションとして、まるで聞こえる人のように話すはま子さんの声をラジオの電波に乗せ、大反響を呼んだという。

 一方でそれは、手話をネガディブに捉え、口話法での「克服」を目指す社会の風潮の反映でもあった。

 戦後にテレビ放送が始まると、ドキュメンタリー番組が障害者を特集。「障害を背負ったかわいそうな子どもたち」などと、「かわいそう」を連呼したり、おどろおどろしい音楽とともに精神科病棟を撮影したり…。今では不適切とされる表現も見られる。

 状況が変わる転機になったのは1981年の国際障害者年。障害者の社会参加が推進され、明るく元気に頑張る当事者の姿がメディアに登場するようになった。大阪局の番組でも、地域で暮らし、地下鉄駅へのエレベーター設置を求め活動する車いす当事者の姿が映し出された。

 「きらっといきる」(1999~2012年)では、当事者が自分たちの言葉で発信する流れができる。

 だが、それもまた「まだ過渡期だった」とNHKの森下光泰さんは語る。取り上げられたのは、障害を乗り越え頑張る「きらっと」生きる人たち。「当事者の人たちからすると、みんながキラキラしているわけではないのに『きらっと生きろ』と言われているようでしんどい。そんな声が寄せられたんです」

 そうした問題意識が結実したのが、2010年に番組内企画「バリアフリー・バラエティー」として始まり、2012年からレギュラー放送化された「バリバラ」だ。まず目指したのは、障害者のイメージを変えること。「特に初期は当事者の熱量も高かった。『突撃!バリバラ団』という企画で、大阪駅に集まり、特設ステージで健常者社会に抱える不満を叫んだものです」。名物となった「SHOW―1グランプリ」では、障害当事者らが漫才やコントなどお笑いをパフォーマンス。自身の障害もネタにする姿が話題になった。

 「仮に健常者が演出して笑いものにさせていたら、非常に微妙。ですが、当事者の人たちが、自分たちで笑かしたいというものは尊重しました」。ディレクターが撮影、編集した映像をスタジオや収録前に出演者に見てもらい、違和感がある点は修正するなど「当事者の視点」を重視したという。

 2016年春からは、「当事者」の枠を広げ、外国人技能実習生、性的少数者ら幅広い人が出演するように番組をリニューアル。念頭にあったのは、障害を主に社会によって作られた問題とみなし、社会の障壁の解消を目指すという社会モデルの考えだ。「社会の障害がなければ、障害者がそう名指されることもないはず。それはマイノリティーを社会的弱者にしてしまう仕組みそのものだと」

 この社会では誰もがマイノリティーになりうるし、相手によってはマジョリティーにもなる。「誰もが自分事として、社会のあり方を考えるメッセージにしたかったんです」。2016年春、障害者差別解消法が施行されたことも番組リニューアルを後押ししたという。

 直後の2016年7月26日、相模原障害者施設殺傷事件が発生する。施設元職員の植松聖死刑囚は「意思疎通のできない障害者は不幸を生む」などと主張。番組は事件から12日後の8月7日放送回で緊急特集を組むなど、継続的に取り上げた。出演した脳性まひ当事者で障害者支援相談員の玉木幸則さんは後の取材に、植松死刑囚に同調する人がいる風潮に「生産性という言葉に締め付けられている人が多くいる」と実感したと振り返っている。

 あれから9年、今年の春「バリバラ」は15年の放送を終え、問いと対話をキーワードにした後継番組「toi―toi(トイトイ)」が始まった。この間、障害者らをとりまく社会の状況は改善されたのか。

 今回の特番では玉木幸則さんや、タレントのはるな愛さんやら5人がスタジオに集合し、なぜ健常者は障害者を不幸と思うのか、テレビやラジオが障害者に向けたまなざしを、当事者の視点でシビアに検証。障害者を不幸にしているのは何なのかを巡り議論を展開する。

 森下さんは、こう強調する。「交流サイト(SNS)などで、権利主張をする障害者やマイノリティーへのバッシングは減っていない。かつての時代の価値観が完全に無くなっていない中で、放送を続ける責任はあると思います」(取材・文 共同通信=加藤駿)