今年の栃木県内アマチュアゴルフ界の最大のニュースは、県知事盃ゴルフ競技大会一般男子の部で中学生チャンピオンが誕生したことだろう。戦国武将毛利元就(もうりもとなり)が、厳島の戦いで奇襲を仕掛ける前に家臣を叱咤(しった)した言葉とされる「人生には三つの坂あり、上り坂と下り坂、そして“まさか”の坂」は有名だが、まさに、まさか、まさか。関係者の誰もが、この偉業に驚いた。

 偉業の主は12歳10カ月の小筆一颯(こふでいっさ)。身長160センチ、体重55キロの那須塩原市厚崎中1年生だ。それまでの記録は2019年の第54回大会で佐野日大高1年の松枝靖悟(まつえだやすのり)がマークした16歳2カ月だった。これを大幅に塗り替えた。高校1年生のチャンピオンにも驚いたが、中学生王者が誕生し、それも1年生。半年前までランドセルを背負っていた少年だ。

一般男子の部で最年少優勝し、知事盃を手にする小筆(那須塩原)
一般男子の部で最年少優勝し、知事盃を手にする小筆(那須塩原)

 一般女子の部では現在プロとして活躍している臼井麗香(うすいれいか)が11年の第46回大会で鹿沼市北押原中1年の時に優勝している。小筆と同じ12歳10カ月だった。女子と比べて層の厚い一般男子の部では中学生の優勝は難しいといわれ、松枝の記録は“不滅の記録”と思われていた。

 偉業の舞台は芳賀CC。18ホールで7千ヤードを超えれば、距離のあるコースと評されるが、7018ヤードの堂々のチャンピオンコース。10ホールあるパー4で400ヤードを切っているのは5番の390ヤードだけという難易度の高い設定だった。

 小筆は260ヤード以上飛ぶドライバーを武器に、4バーディー、2ボギーの2アンダー70で堂々の優勝だ。1打差の71の4人の顔ぶれもすごい。過去2回優勝で県アマ界の“横綱”、後藤貴浩(ごとうたかひろ)、県アマ歴代優勝者の1人である中川雅俊(なかがわまさとし)らだ。

小筆一颯
小筆一颯

 “不滅の記録”を塗り替えた記録は、昨年も誕生している。やはり一般男子の部。井上雄(いのうえゆう)が大会史上最年長の56歳10カ月で優勝した。これまでの最年長優勝は12年の第47回大会で歌川康広(うたがわやすひろ)がマークした56歳2カ月。それを8カ月も更新した。歌川は元競輪選手で並外れた体力の持ち主。その不滅の記録を6年ぶりに破ったのが、歯科医というのにも驚かされた。

一般男子の部で初優勝し、知事盃を手にする井上雄
一般男子の部で初優勝し、知事盃を手にする井上雄

 今年の男子プロツアーのACN選手権で中学3年生プロの加藤金次郎(かとうきんじろう)がレギュラーツアー初の予選通過を果たした。これまでにアマチュアとして4試合、9月のプロ転向後2試合に出場しており、この大会がレギュラーツアー通算7試合目。15歳185日での予選通過はツアー歴代15番目の年少記録だが、この年代でプロ転向した例は国内ではほとんどなく、プロに限ると最年少での予選通過となった。

 昨年の女子ゴルフの国内ツアーメジャー大会、ワールド・サロンパス・カップでは韓国から参戦のしたアマチュア、李暁松(リヒョソン)が7打差を大逆転し、通算8アンダーで日本メジャー制覇を果たした。15歳176日での優勝は、勝(かつ)みなみの15歳293日を超える日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)ツアー史上最年少優勝だった。さらに石川遼(いしかわりょう)の15歳243日も上回り、男女通じて日本ツアー最年少記録となった。「日本」という舞台に目を向けると、上には上がいるもんだ。

 伸び盛りの小筆には来年ぜひ、県知事盃一般男子の部で3人しか達成していない連覇を狙ってほしい。さらには未踏の3連覇を。これからも、まさか、まさかを期待したい。