破天荒な山医者はスキーをはいて往診に出かけ、アユ釣りや狩り、木登りなどの達人でもあった。那須町湯本の開業医で、作家でもあった故見川鯛山(みかわたいざん)さん。今年は没後20年に当たる。
作品にほれ込んだ俳優柄本明(えもとあきら)さんの提案で舞台化された。2021年の公演に続き、2作目となる「また本日も休診-山医者のうた-」は今年10~11月、東京・明治座と宇都宮市の県総合文化センターなど3会場で上演され、連日満席の盛況だった。
那須の美しい四季の描写とともに、ユーモアを交えながら人間や自然に優しいまなざしを向けた見川さんの著書は、豊かさや便利さを優先しがちな現代の生き方を問い直す契機となろう。
見川さんは「泰山(たいざん)」が本名。1916年、安蘇郡植野村(現佐野市)の医師の家系に生まれた。東京の病院勤務を経て42年、無医村だった那須高原に診療所「見川医院」を開業。60年以上にわたり、へき地医療に取り組むとともに、作家の故獅子文六(ししぶんろく)に師事して文筆活動を続けた。主な著書にデビュー作「田舎医者」をはじめ、「本日も休診」「医者ともあろうものが…」などがある。
那須連山の自然や、麓に暮らす人々との交流を通じて笑いと哀愁を、軽妙なタッチで書き続けた。大工の六さん、茶畠巡査など実在の人物をモデルにした登場人物が随所で活躍する。農民や患者、家族、友人。華やかな出来事は起きないが、作品にはただ誠実に生を営む人々の姿がある。人間愛にあふれた作品の数々だ。
「田舎医者」は森繁久弥(もりしげひさや)さん主演でテレビドラマ化もされ、昭和のお茶の間で人気となった。「本日も休診」は漫画誌でも連載された。
「世の中は忙しいが、それとは違って那須ではゆったりとした時間が流れていて、とっても広いものがあるんだということを感じる」。舞台で見川役を演じた柄本さんは、下野新聞社の取材に作品の魅力を語り、こう付け加えた。「コアなファンはたくさんいるけれど、忘れられている面もある。もっともっと知られていい作家だね」
見川さんが亡くなってから20年が経過し、作品に触れる機会は以前より少なくなった。郷土の宝でもある見川さんの作品が、読み継がれていくことを願う。
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