堀井雄二さん(左)と早坂将昭プロデューサー

 HDー2D版「ドラゴンクエスト☆(ローマ数字1)&☆(ローマ数字2)」(「ニンテンドースイッチ」版)((C)ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SPIKE CHUNSOFT/SQUARE ENIX)

 HD―2D版「ドラゴンクエスト☆(ローマ数字1)&☆(ローマ数字2)」より((C)ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SPIKE CHUNSOFT/SQUARE ENIX)

 HD―2D版「ドラゴンクエスト☆(ローマ数字1)&☆(ローマ数字2)」より((C)ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SPIKE CHUNSOFT/SQUARE ENIX)

 HD―2D版「ドラゴンクエスト☆(ローマ数字1)&☆(ローマ数字2)」より((C)ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SPIKE CHUNSOFT/SQUARE ENIX)

 堀井雄二さん(左)と早坂将昭プロデューサー  HDー2D版「ドラゴンクエスト☆(ローマ数字1)&☆(ローマ数字2)」(「ニンテンドースイッチ」版)((C)ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SPIKE CHUNSOFT/SQUARE ENIX)  HD―2D版「ドラゴンクエスト☆(ローマ数字1)&☆(ローマ数字2)」より((C)ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SPIKE CHUNSOFT/SQUARE ENIX)  HD―2D版「ドラゴンクエスト☆(ローマ数字1)&☆(ローマ数字2)」より((C)ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SPIKE CHUNSOFT/SQUARE ENIX)  HD―2D版「ドラゴンクエスト☆(ローマ数字1)&☆(ローマ数字2)」より((C)ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SPIKE CHUNSOFT/SQUARE ENIX)

 1986年に第1作が発売された「ドラゴンクエスト」が来年40周年を迎える。その原点である1と2が2025年10月、ドット絵と3DCGが融合したグラフィック表現「HD-2D」でリメークされた。シリーズ生みの親であり、今も制作に携わるゲームデザイナーの堀井雄二さんは今年、旭日小綬章を受けた。かつて大人から目の敵にされたゲームはもはや、日本文化の代表選手だ。堀井さんと、HD-2D版「1&2」でプロデューサーを務めた早坂将昭さんが共に取材に応じ、世代を超えて愛されてきたドラクエを貫く哲学の一端を明かした。

【ほりい・ゆうじ】1954年兵庫県生まれ。早稲田大卒業後、フリーライターを経て、ゲームデザイナーに。代表作は「ドラゴンクエスト」シリーズのほか、「ポートピア連続殺人事件」、「いただきストリート」シリーズ、「クロノ・トリガー」など。

【はやさか・まさあき】

 HD-2D版「ドラゴンクエスト1&2」「ドラゴンクエスト3 そして伝説へ…」プロデューサー。2015年にスクウェア・エニックスに入社。「OCTOPATH TRAVELER(オクトパストラベラー)」ではアシスタントプロデューサー兼サウンドディレクターを務めた。

(1)「1は1人がいい」

▼記者 HD-2D版は3が先行して昨年出ましたが、今回「ドラゴンクエスト1&2」をリメークすることになった経緯を教えてください。

●堀井 一番人気があった3を最初にした方が、思い出もあるだろうし遊んでくれるかなと思って、意表を突いて3からやろうよ、と言いました。

▼記者 最近のゲームはかなり複雑ですが、1をリメークするに当たって意識したことはありますか。

●堀井 3の後に出すという意味では、オリジナルの1はあまりにもシンプル過ぎて、ちょっと拍子抜けじゃないかと思いました。肉付けや追加要素を入れて、3の後に出しても遜色ないようにしました。

◆早坂 ゲームは続編が出たら進化するものなので、この前の3より良いものにしなくては、と考えました。

▼記者 早坂さんは3のリメークも担当しています。振り返ってみてどうですか。

◆早坂 プレッシャーはありました。自分もドラゴンクエストで育ってきた人間で、しかもそのシリーズの最初の3作品です。3はまさに社会現象になったタイトルで、ファンがとても期待しているのが分かっていて、失敗したら業界にいられないな、ぐらいの気持ちでやっていました。とても大変でした。

 でも堀井さんと一緒にできたので、これは誇るべき、いろんな人に自慢できる仕事ができたと思います。私はちょうど今、1を出した当時の堀井さんくらいの年齢です。

▼記者 もともとの1とは全くの別物と言えそうですね。

●堀井 以前の1をプレーした人は結構多いと思いますが、そのつもりで今回のリメークをプレーすると、「えっ、すごい!」と驚くと思います。

▼記者 HD-2D版でも勇者が1人で戦うのでしょうか。

◆早坂 企画の段階で、1人旅は大変なので仲間を作りましょうか?と堀井さんにご提案をしましたが「いや、1は1人のままがいい」とお答えを頂いたので「分かりました」と。戦闘で出てくる敵は、複数にしましたが、1人で旅するのがドラゴンクエスト1の大事なアイデンティティーですね。

▼記者 ゲームのボリューム自体も1はシンプルですが、HD-2D版での遊びがいはいかがですか。

●堀井 相当膨らませてるよね。

◆早坂 1.5倍から2倍くらいのボリュームになっています。

▼記者 グラフィックも全然別物になっていますね。

●堀井 きれいになってます。もともと2Dのゲームなので、今回のHD-2Dという表現法がすごく合っていると思います。3DCGで視点をぐるぐる回せるようにしたら、全然別のゲームになっちゃう。

◆早坂 立体的になってすごく見た目が変わっていますが、真上から見下ろした時は、昔のファミリーコンピュータのマップと同じ形にしているので「あそこにあれあったよなぁ」みたいに感じられると思います。

▼記者 懐かしさと新しさを同時に感じられるようにする作業に難しさはありますか。

◆早坂 原作があるリメークなので、まるで違うものにしたらそれはリメークとは呼べない。原作が好きなファンの人たちが「これじゃない」となってしまうので、変えるべきところは変えて、変えないところは変えない。そのバランスは大変でした。

(2)海底も自由に旅する

▼記者 2では今回、新しい仲間が登場します。

◆早坂 3の時に新職業の「まもの使い」が登場して、今回も同じような目玉を用意しなきゃいけないとなりました。過去のリメークを見ると、職業とか仲間が新要素になることが多かったので、今回は“新仲間”にしてみようか、と。原作にも登場して、しかもロトの血筋をちゃんと引いているキャラクターということで、サマルトリアの王女に決めた感じですね。

▼記者 2は船を入手してから、すごく自由度が上がるんですけど、どこに行ったらいいんだろうと悩むプレーヤーさんもいるかもしれないですね。

●堀井 もともとは自由にどこでも行けたんですけど、さすがに迷う人もいるので、今回のリメークでは次に行くポイントをマップ上に示して、すごく遊びやすくなっています。

 HD-2D版の2だとさらに海底に行けるようになりました。

▼記者 海底にもいろんな仕掛けがありそうです。

◆早坂 あります。そもそも広いので、それだけでゲームのボリュームが膨らみました。地上の大陸とほぼ同じくらいの広さの海底を船で潜っていろんなところに行けるので。全部回ろうと思ったら、時間がかかります。

●堀井 あと、幽霊船も出てきます。

▼記者 他のシリーズに登場している、「ちいさなメダル」は登場しますか?

●堀井 ありますね。いっぱい集めると交換できるというのが楽しいかなと思って(シリーズの別の作品で)導入しましたが、今回の1&2にも入れました。

▼記者 難易度などのゲームバランスを時代に合わせて調整しましたか。

◆早坂 たくさん手を入れています。バトルバランスから、特技や呪文の数も、出てくる敵の数も増えています。ありとあらゆるところに手を加えていますね。

▼記者 バトルバランスの調整というと?

●堀井 1は1対1の戦いだったんですけども、それは当時のゲームの容量では1体しか出せなかったからです。それが2ではモンスターを複数出せるようになっていきました。今回1はさすがに1対1ではなくて、プレーヤー対複数のモンスターなんですよね。

◆早坂 1対1を1対複数にするのは、まるでゲームバランスが変わるので、そこの調整はほぼゼロベースでやっています。

▼記者 HD-2D版の良さなど、お伝えしたいことはありますか。

●堀井 遊びやすくなっているので、小さいお子さんにいっぱい遊んでほしいです。昔のファンはもちろんですけど、新しくゲームを始める人、ゲームが苦手だという人も、今作は遊びやすいと思います。

◆早坂 難易度も選べて、簡単なモードにすると“チカラつきない”ので、ずっと攻撃していれば、いつか倒せると思います。また、振り仮名モードとか平仮名モードを用意したのも、小さい子にも遊んでほしいという思いからです。

▼記者 HD-2D版では声優がキャラクターの声を吹き込みました。

◆早坂 大変でしたが、聴いていて楽しいです。命が吹き込まれている感じがするので。

(3)ゲームはコミュニケーションツール

▼記者 ドラクエは来年40周年を迎えます。

●堀井 40年続くとは思っていなかったんですよ。1・2・3は1年ごとに出していたんですよね。

 だんだん開発期間が長くなって、グラフィックもきれいになって、かかる予算も人数もすごく増えちゃって、求められるレベルもすごく高くなってきたので、それに応えるためにいろんなことをやってきましたね。

 あとは、ユーザーの皆さんがついてきてくれてうれしいです。当時小学生ぐらいだった子が、40歳、50歳になっても、ドラクエの新作を待ってくれているんですよね。それはすごくうれしいですよね。

 ドラクエは50周年まで行けると思っています。

▼記者 40年愛されているのはなぜだと思いますか。

●堀井 みんな当時ゲームをやった思い出があると思うんですよ。小学生だった時に攻略する中で「これを見つけた」と言って友達に自慢したりとか、クラスで有名になったりとか。お兄ちゃんにレベル上げを頼まれてずっとやったとか、いろんな思い出と一緒にある。愛されたという気がしますね。ゲームといっても、一種のコミュニケーションツールだったと思うんですよ。ストーリーをどこまで進めたとかを話すのがうれしいとかね。

 今もみんなネット上で話してますからね。ゲーム実況という新しいジャンルもあります。昔はゲームはやるものだったけど、ゲームを見るのも娯楽になりました。スポーツと一緒ですよね。野球も昔はやるだけだったのがファンが増えて観戦したりとか、ゲームもうまい人のプレーをネットで見るとか今はいろいろあります。

 今、オンラインゲームもそんな敷居が高くなくなりましたよね。普通にスマホでもネットでつながっているので。

(4)予定調和ではない楽しさを

▼記者 来年の40周年に向けて、次は7のリメークが出ることになりました。

●堀井 7はもともとシリーズ初の3DCGを取り入れた作品でしたが、今回は人形のような温かみのある表現「ドールルック」でリメークします。

▼記者 シリーズを始めた当時のことを振り返って、1と2を作ったことが、堀井さんのゲームデザイナー人生にどんな影響を与えているのでしょうか。

●堀井 人生を変えましたよね。もともとフリーライターで、雑誌の記事を書いたりしていました。ある時、パソコンを買ってはまってゲームを作り始めました。1、2くらいの時はライターもやっていたので、二足のわらじだったんですけど、3で社会現象になっちゃったんで、これ一本でいこうと思って、ゲームだけに絞りました。それこそライフワークになってしまいましたね。

▼記者 これまで意欲的にお仕事を続けていられる秘訣はありますか。

●堀井 なんでしょうね。よく分からないですけど、仕事を全部やめちゃうと寂しいかな、と。もともとゲーム好きだったので。

▼記者 最近もご自分でゲームをしますか。

●堀井 ちょこちょこやってますね。最近はスマホゲームをプレーすることも多いです。ドラマも好きなんでネットフリックスとかでドラマも見ます。タイムスリップものや、ミステリーも好きですね。

▼記者 ドラゴンクエスト1、2のストーリーはシンプルでしたが、シリーズを重ねるごとにボリュームが出てきドラマ性が増してきました。こだわりはありますか。

●堀井 なんでシンプルだったかというと、容量の問題があったからです。文字が入らないと言われたので、文字を7ビットにおさめて、表示される文字を1文字ずつ削るような作業をしていました。シリーズが進むにつれてそういう制約がなくなったので、自由に書けて、お話も深くなったなと思います。

▼記者 お話を考える上で何か工夫していますか?

●堀井 難しい質問です。予定調和になるとつまらないので、どう意表を突くかを考えています。

 例えば1で言うと、最後の敵である「りゅうおう」に会った時になんて言われると一番驚くかって考えました。「みかたになれば せかいの はんぶんをやろう」と言われたらどうか。絶対にびっくりするだろうなと思って書いた記憶があります。ある意味で、読んでいる人と1対1の勝負ですよね。小説と違ったインタラクティブ的な物語の楽しさってありますよね。

▼記者 3のストーリーには、1、2からの伏線がつながる大きな驚きがありました。

●堀井 HD-2D版は今回、3から始めたので、その点では意表を突けないので、2の最後でちょっとしたお楽しみを用意しました。

(5)容量との闘いから作る手間との闘いへ

▼記者 今、ゲームはスマホで遊べるなど、40年前と状況が変わってきています。最近のゲームを取り巻く状況をどう見ていますか。

●堀井 今はみんな、当たり前の娯楽として、物心ついたらゲームをやっていたという人が増えていると思います。娯楽が増えて、ユーチューブもそうだし、TikTok(ティックトック)とか、アニメもそうだけど、いろんなものとの時間の奪い合いになっています。娯楽が多すぎるというか。

◆早坂 それらと戦わなくてはいけないですからね。大変です。

▼記者 ドラクエシリーズは海外でも展開しています。

◆早坂 今回のHD-2Dは「オクトパストラベラー」というタイトルから生まれて、海外ですごく受けいれられた表現方法で、リメークされた3でも導入し好評をいただきました。1、2も楽しんでいただけるんじゃないかなと期待しています。

▼記者 ストーリーについては特に海外はそんなに意識せず、ドラクエらしさを追求しているのでしょうか。

●堀井 海外だからとストーリー作りで意識することはないですね。ストーリーは世界共通、面白いものは面白いと思っています。

▼記者 ドラクエらしさとはどんなものだと思いますか。

●堀井 自分じゃあんまり分からない。実はね、みなさんがドラクエらしさだと思っていることがあるんだろうと思っていて。

◆早坂 僕ら開発者からすると、堀井さんそのものがドラクエらしさの象徴なので、堀井さんとご相談しながらやっていけば、おのずとそれは出てくる。

●堀井 温かみとか、分かりやすさとか、なにをしても許される世界観とか、そういうことですかね。

▼記者 ゲームのプレーヤーは男性が多いイメージですが、女性人気はいかがですか。

●堀井 (女性に人気のルームウェアブランド)「gelato pique(ジェラート ピケ)」とコラボしたところ大変好評で、行列ができていろいろなものが売り切れたそうです。女性にもスライムなどのキャラは結構人気なようなので、ぜひ女性もプレーしてほしいですね。

▼記者 40年間を振り返っていかがでしょうか。

●堀井 ドラクエはずっと容量との闘いでした。今は逆に、容量はいくらでもあるので、作る手間との闘いですね。

◆早坂 人もたくさんいて、時間もたくさんかかって、お金もかかって。そこの調整との闘いです。

●堀井 今は何百人で何年もかかって作っているので、大変です。

◆早坂 技術がものすごく発達してくれれば、ゲームの開発期間が短くなるかもしれないですけど、まだだいぶ先でしょうね。

▼記者 シナリオやキャラクターデザインの大事なところは、どうしても人がやらないといけない。

●堀井 そうですね。AIに作らせてもそれなりのものはできると思いますが、やっぱりそれに息を吹き込む人間の仕事が大切だと思います。