老朽化や耐震性が問題となっている足利市役所庁舎と新市民会館の建て替えを巡り、市は両施設を複合化し五十部(よべ)町の旧足利競馬場跡地に整備する方針を決めた。選定理由として、工期が短く地盤も比較的強固である上、複合化によるコストの縮減効果が大きい点などを挙げた。
JR足利駅や東武足利市駅から約2・8キロ離れているため、一部の市民は「市中心街から遠くなり活力が失われる」と反対している。市は市民への丁寧な説明に加え、活性化につながるような市庁舎跡地の利活用策を打ち出し、不安解消に努めるべきだ。
現在の市庁舎は震度6以上の地震で倒壊や崩壊する危険性が高いと判断されている。来庁する市民や市職員の安全性を考慮すれば、一刻も早い建て替えが求められている。
市は新たな土地取得が財政上難しいとして、現庁舎敷地を含めた市有地3カ所を候補地としていた。渡良瀬川に隣接する旧足利競馬場跡地は、他候補地に比べ工期が65~97カ月程度短いとの試算がある。工期の大幅縮減などに伴いコストも抑えられる。洪水が発生した場合の浸水対策として、市は約1・4メートル盛り土をすることで、被害の低減を図れるとしている。
厳しい財政状況を鑑みれば、コスト縮減の観点は避けて通れない。他の候補地を選択し、建築費が大幅に増加した場合、「税金の無駄遣いではないか」と批判される恐れもある。
とはいえ、長年市中心部にあった市庁舎の移転を不安視する市民感情も、十分理解できる。移転後の市庁舎跡地をどう利活用するのかが、市民の納得感を醸成する上で重要となってくる。
例えば、老朽化している市図書館や手狭となっている市美術館、市民団体が建設を求めている歴史ミュージアム、公民館などの各機能を集約した施設を検討してみてはどうか。「歴史や文化の香るまち・足利」を体現できるような施設ができれば、にぎわいを創出する魅力的な拠点となり、観光客らの中心街の回遊性もより高まるだろう。
市は2028年中の新市役所と新市民会館の着工を目指しており、完成は31年度を見込む。完成までの期間を生かして市民の声に誠実に耳を傾け、多くの市民に喜ばれる跡地利活用策に知恵を絞ってほしい。