東京都豊島区の雑司が谷は、都心近くに位置しながら閑静で、のんびりとした時間が流れる。雑司ケ谷鬼子母神堂を中心に、古くからの信仰が息づく町を散策した。
JRから都電荒川線に乗り換える。「チンチン」とレトロな発車ベルが優しく響き、車両は街を縫うようにゆっくり進む。鬼子母神前駅で降りて少し歩くと、参道のケヤキ並木が見えてくる。
ケヤキ並木は都の天然記念物で、このうち4本の古木は推定樹齢600年を超えるという。「地域で大切にしてきた木々は、四季折々の風景を豊かに彩ってくれます」と「雑司が谷案内処」スタッフの久保志乃さん。
今年、開設15周年の案内処はお薦めスポットや地域の文化、歴史を伝える他、商売繁盛の縁起物や健康のお守りとして人気の郷土玩具「すすきみみずく」などゆかりの品を販売する。久保さんが「すすきみみずくはこの町のシンボル。病気の母親の回復を祈り毎日お参りをした娘に、鬼子母神からみみずくを作るようお告げがあったのが始まり、との言い伝えがあります」と教えてくれた。
参道を抜けて、子育てや安産の神様である鬼子母神を祭る本殿へ。1664年に建立され、江戸時代を通じて武家から庶民に至るまで広く信仰を集めてきた。
境内には推定樹齢約700年、高さ30メートルを超える大イチョウがそびえる。抱きつくと子宝に恵まれる「子授けイチョウ」として親しまれてきたといい、参拝者が絶えることはない。
都電荒川線の踏切を渡り、住宅地を10分ほど歩くと雑司ケ谷霊園の広大な敷地が広がる。東京ドーム2個分を超える霊園には、夏目漱石ら多くの著名な文化人が眠る。明治時代の作家小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)のお墓も。八雲の妻セツがモデルのNHK連続テレビ小説「ばけばけ」の展開に思いを巡らせ、手を合わせた。
【メモ】鬼子母神前駅から雑司ケ谷鬼子母神堂は徒歩約3分。