インタビューに応じる角野隼斗

 角野隼斗

 角野隼斗

 インタビューに応じる角野隼斗  角野隼斗  角野隼斗

 世界の音楽ファンが注目するショパン国際ピアノコンクールが開幕した。前回2021年大会のセミファイナリスト角野隼斗は、コンクールが「転機になった」と語る。いまや国際的に活躍する人気ピアニストとなった角野が語る“ショパコン”とは―。(取材・文 共同通信=須賀綾子)

 ―角野さんの音楽人生に、ショパンコンクールはどんな影響をもたらしましたか?

 「コンクールに出ていなければ、今ほど海外でコンサートはできていなかったと思います。ヨーロッパのエージェント(代理人)が僕を見つけてくれたのも、ソニー・クラシカルとの専属契約も元をたどればコンクールがきっかけです。出場すればキャリアが約束されるというわけでは全くないし、特に今の時代はコンクールもたくさんあってキャリアを積むにはまた別の難しさがある。それでも、ショパンコンクールはピアノ界にとってオリンピックのようなもの。大きな転機になりました」

 ―出場前からYouTubeやコンサートで活躍して、注目を浴びていました。挑戦にためらいはありませんでしたか?

 「よく聞かれますが、応募した時は全く無名の学生でした。コンクールで世界に出ようというより、むしろ好きな作曲家ショパンを学ぶ良い機会だと思って。それが(コロナ禍で)開催が1年延期された間に有名になり、本当に出場するべきか何週間も悩みました。それでもショパンをしっかり勉強することは大事なことだし、やりたかった。実際、(恩師の)金子勝子先生もフランスのジャン=マルク・ルイサダ先生も本当に親身になってレッスンをしてくれました。そういった機会も、コンクールという目標があったからこそです」

 ―最高峰の舞台での演奏。どんな経験でしたか。

 「1~3次予選まで緊張で手は震え、毎回『あ、終わった』って。それぞれ本番の20~30分はほとんど覚えていません」

 ―セミファイナルまで、という結果をどうやって受け止めましたか?

 「とりあえずポーランドを離れました。音楽から離れるというより、時間を有意義に、今後のプラスになることをしたかった。ニューヨークに行こうとしたけど(コロナ禍の)入国制限で行けず、パリやロンドン、バルセロナなどヨーロッパを2週間くらいかけて回り、コンクールを見てメッセージをくれた(ピアニストの)フランチェスコ・トリスターノをはじめ、いろいろなミュージシャンに会いました。そうした出会いが、その後のコンサートにもつながっているので、思い返すとあれはあれで良かったですね。当時は考える余裕もありませんでしたが」

 ―心境に変化はありましたか

 「2020年に『かてぃん』としてYouTubeで知られ、(ジャズの殿堂)ブルーノート東京で初のソロライブをしたり、ポップスのアーティストとコラボしたり、それはやりたいことだったし、自分の強みだとも思っていた。漠然と、人と違うことをやりたい、と。ただ、自分がどこに進んでいるのかよく分かっていなかった。それが、ショパンコンクールに出場したことで、自分の中で『出自はクラシック』だと定まって、その後の活動を方向付けるきっかけになった気がします」

 ―今回の大会に関心は?

 「もちろん見ると思います。ファイナル(の課題曲)に『幻想ポロネーズ』が加わったのは、『ショパンの真髄は後期の作品に表れる』と思っている硬派な審査員たちの意向が働いたのかな、とか、評価基準がどう変わっていくのかということに興味があります」

 ―ショパンコンクールが特別であり続けるのはなぜだと思いますか?

 「一人の作曲家の作品しか弾けないコンクールというのは特殊ですよね。それはショパンがいかにピアノという楽器に特化していたかという証左でもありますが。レコードを聴いてもショパンだけは演奏者によっての違いがとてもはっきりと分かるんです。どういうわけか演奏者のパーソナリティーが見えてくる。皆が弾くラフマニノフやリストの違いよりもはるかにショパンは演奏の解釈の分散が大きい。だからこそショパンの作品だけのコンクールが成り立つわけで、ショパンコンクールはクラシックの再現芸術としての面白さの象徴だと思います」

 「あとは、過去の優勝者たちのおかげですね。ポリーニ、アルゲリッチをはじめ大スターたちがコンクールの価値を高めてきた。今回のコンクール期間中、広島の公演でアルゲリッチと舞台を共にします。きっとコンクールの話になるはずです」

☆角野隼斗さん出演の主な公演

10月15日 被爆80周年“Music For Peace”「明子さんのピアノ」支援コンサート(広島市・広島文化学園HBGホール)

10月16日 被爆80周年“Music For Peace”平和音楽大使 マルタ・アルゲリッチ特別公演(広島市・広島文化学園HBGホール)

10月18日 被爆80周年“Music For Peace”平和音楽大使 マルタ・アルゲリッチ特別公演(山口県岩国市・シンフォニア岩国コンサートホール)

11月29日 角野隼斗ピアノリサイタル“Klassik Arena”supported byロート製薬(横浜市・Kアリーナ横浜)

12月22日 角野隼斗&ジャン=マルク・ルイサダ ピアノデュオリサイタル(大阪市・ザ・シンフォニーホール)

12月23日 角野隼斗&ジャン=マルク・ルイサダ ピアノデュオリサイタル(岐阜市・サラマンカホール)

12月25日 芸劇リサイタル・シリーズ「VS」Vol.10角野隼斗×ジャン=マルク・ルイサダ(東京芸術劇場)

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 「クレッシェンド!」は、若手実力派ピアニストが次々と登場して活気づく日本のクラシック音楽界を中心に、ピアノの魅力を伝える共同通信の特集企画です。