日本でいつ流行しても不思議はないと言われるのがチクングニア熱です。チクングニアウイルスを持った蚊に刺されることで人が感染します。

 

 “チクングニア”の名前はアフリカの言語で「曲がるもの」と訳され、「かがんで歩く」という意味に由来します。チクングニア熱で出る関節痛の症状が、激しい痛みのために体を折り曲げるようにして歩くという患者の様子を表したものです。

 もともとはアフリカやインド洋、南アジア、東南アジアの地方病でしたが、近年は中南米に、最近ではヨーロッパ、北米にも広がって、2025年には中国で流行して多くの患者が報告されました。

 日本ではヒトスジシマカが媒介します。吸血されてからの潜伏期間は2~12日で熱が出て、関節痛、発疹がでます。デング熱の症状によく似ています。チクングニア熱の死亡事例はまれですが、関節痛は手首、足首、指、肘、膝、肩を中心に数週間続き、手足の先端の方が強く痛みます。関節痛は長い場合には数カ月、年単位に及ぶこともあります。軽症の人もいますが、幼児や高齢者では特に要注意です。

 治療薬も、日本で承認されているワクチンもありません。海外では、弱毒生ワクチンがあります。チクングニアウイルスに感染予防効果があり、曝露のリスクが高い18歳以の人に向けて使われています。

 治療は、症状に対する対症療法ですが、結膜炎や神経系の症状がみられ、出血しやすくなることもありますので、解熱、鎮痛薬にはサリチル酸系の薬は避け、アセトアミノフェンを使用します。感染予防としては、蚊に刺されないように肌の露出部分を減らして、虫よけスプレーなどの忌避剤を使うなどです。

 海外の流行地域から帰国して、発熱や関節の痛みが長く続くなどがあった場合にはチクングニア熱の可能性もあります。そして、蚊が活動する期間が長くなり、外国人観光客がたくさん来日している状況下では国内発生が起こっても不思議ではありませんね。

岡田晴恵教授
岡田晴恵教授

 

おかだ・はるえ  医学博士。専門は感染免疫学、公衆衛生学。テレビやラジオへの出演や執筆活動を通じて、感染症対策の情報を発信している。