「クラシック音楽を身近に感じてもらいたい」との思いを胸に、ユーチューブでの演奏動画の投稿などに熱心に取り組む人気ピアニスト「たくおん」こと石井琢磨。新著「たくおん式なるほどクラシック」(KADOKAWA)では、名曲の聴き所やピアニストの練習方法などを紹介し「音楽の面白さと同時に、石井琢磨という人間も知ってもらえます」と語る。(取材・文 共同通信=田北明大)
動画投稿を始めたのは、ウィーン国立音楽大で学んでいた5年前。国際コンクール入賞や音楽祭への出演といった実績を積み、プロとしての活動が軌道に乗ってきた頃、コロナ禍に見舞われた。コンサートが軒並み中止になる中、「ピンチをチャンスに」と考え、演奏動画を公開し始めた。
ストリートピアノの演奏に、ウィーンのカフェでの飛び込み演奏…。今では再生回数1億回以上を誇る人気チャンネルとなったが、最初の動画の再生回数はわずか14回。「そのうち9回が家族でした。でも残りの5回を見てくれた人がいるのがうれしかった」と笑う。
視聴者の傾向を分析して分かったのは、「クラシックの曲を弾いた時ほど、途中で止めずに見続けてくれる人が多い」ということだ。「演奏を聴いてもらったら絶対にクラシックを好きになってもらう自信がある」
ウィーン国立音楽大の先生に「コップの水をあふれさせるのは簡単。表面張力が働くギリギリまで水を入れるのが芸術だよ」と言われたことが忘れられない。演奏の際は自分の好きなように弾くのではなく、作曲家の意図をくみ取った上で、どのように自分の色が出せるかを考える。動画でも、目を引く演出を盛り込みながらも決して過剰にはせず、音楽に真摯に向き合う。
新著では、これまで再生回数の多かった動画の紹介や、オーケストラの基礎知識の解説から、盟友のピアニスト髙木竜馬らとの対談も収録。「執筆しながら改めて音楽の知識や魅力を再確認した。クラシックが好きな人にも深く面白く読んでもらえる本になっていると思います」
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「クレッシェンド!」は、若手実力派ピアニストが次々と登場して活気づく日本のクラシック音楽界を中心に、ピアノの魅力を伝える共同通信の特集企画です。