東京都目黒区と世田谷区が隣り合う東急田園都市線の池尻大橋駅かいわい。すぐ東には首都高速道路の大橋ジャンクション屋上に造られた「目黒天空庭園」があり、東南の高台には明治の元老・西郷従道邸跡を整備した公園が二つ並ぶ。ほんの少し空に近い所からの眺めを楽しんだ。
ジャンクションに隣接するビルの9階から庭園に出た瞬間、視界が大きく開けた。巨大なループ状の庭園は面積約7千平方メートル。園内にはさまざまな花や木が植えられ、目を飽きさせない。展望スポット「富士見台」からは、世田谷区の三軒茶屋辺りまでがきれいに見えた。
天空の庭園から地表に降り立ち、「菅刈公園」と「西郷山公園」を目指した。この辺りは、西郷隆盛の弟で海軍大臣などを歴任した従道の広大な邸宅にちなみ「西郷山」と呼ばれていた。
従道は明治初頭、江戸の名所でもあった大名庭園を購入し、和洋折衷の庭園に改修。明治天皇をはじめ多くの名士が訪れたという。フランス人建築家の手になる洋館(重要文化財、現在は愛知県の博物館明治村に移築)や書院造りの和館を配して「東都一の名園」とも称された。菅刈公園の日本庭園には、西郷邸時代の池や滝も一部復元されている。
西郷山公園は旧西郷邸敷地の北東部分にあたり、台地の端の斜面に位置する。しばらく坂を登ると、見晴らしのよい“山頂”に到達した。草の上で車座になり、ピクニック気分を味わうグループが幾つもいた。
駅への帰り道は目黒川沿いを歩いた。アーチ状の真っ赤な「中の橋」に見とれ、かつて近くを走っていた路面電車旧玉川線(玉電)のプラットホームを再現した場所にも立ち寄って気持ちのよい半日の散歩を終えた。
【メモ】三島由紀夫の小説「春の雪」(「豊饒の海」第1巻)に出てくる松枝侯爵邸は、旧西郷邸がモデルとされる。