本県の風土と県民の生活の中で育まれ、受け継がれてきた県伝統工芸品。後継者育成や次世代への継承などを目指し、県が2004年にスタートした「県伝統工芸士」の認定制度も今年で丸20年となる。現在は173人が認定され、県指定58品目の伝統を守る。昔ながらの高度な技術や技法で、工芸品をつくり出す認定工芸士の仕事ぶりや思いなどを紹介する。
 

戦前の古いのこぎりの目立てを行う関根さん

中屋久作の(上から)のこぎり、包丁、なた

戦前の古いのこぎりの目立てを行う関根さん
中屋久作の(上から)のこぎり、包丁、なた

 高校を出て60年近く。仕事を父の俊一(としいち)さん=2011年に91歳で他界=に学び、屋号「中屋久作」を継ぐ4代目だ。鉄を焼き、たたき、焼き入れし研磨する、手間がかかり危険も伴う鍛冶の仕事を明治初めの頃から代々家業にしてきた。

 柳刃、出刃、菜切りなどの包丁類、なた、植木ばさみまで現在15種ほどを扱う。取材中に店を訪れた顧客の元教師の男性(83)は、庭の手入れにのこぎりとなたを愛用している。「切れ味がいいし、使いやすい」と、ぞっこんの様子だ。

 「一番うれしいのはお客さんに喜んでもらうこと。でも駄目なときは駄目と言ってもらえるように『窓』は開けておく」。許された「県伝統工芸品」のシールを製品に貼ることに誇りを持ち、責任を持つ気概を言葉の端々ににじませる。

 近年は鍛冶屋が使う程度の少量の鋼の入手が困難となった。炉に火が入ることは減り、チェーンソーや草刈り機など機械修理の仕事が収入の大半という。

 「廃業した加冶屋に残る鋼を探して回るが手に入らない。材料がなくなれば鍛冶を続けるのは厳しい」と案じる。先行きは平たんではない。それでも息子の5代目良和(よしかず)さん(52)は「せっかく受け継いだ技術。守りたい」と話した。

 茂木の打刃物 40年ほど前には芳賀郡内に6、7軒あった鍛冶屋は現在「中屋久作」のみ。先代の関根俊一さんが作って残した包丁やなた、のこぎりも含め、店頭でのみ販売している。