年月の経過を感じさせる板張りの長い廊下

波板ガラスや障子を通して、わずかな外光が届く和室

西洋風を意識し、両開きの窓がある洋室

木漏れ日が注ぐ庭と建物外観

年月の経過を感じさせる板張りの長い廊下 波板ガラスや障子を通して、わずかな外光が届く和室 西洋風を意識し、両開きの窓がある洋室 木漏れ日が注ぐ庭と建物外観

 【さくら】喜連川図書館北側にある「笹屋別邸」は、大正時代に造られた個人邸宅。木造平屋一部2階建てで、延べ床面積は216平方メートル。来客のもてなしの場として利用された建物で、和室6室に洋間2室がある。レトロな建築に合わせるようにフィルムカメラで室内外を撮影し、邸宅の魅力を紹介する。

 笹屋別邸は市が2015年1月から、土地建物を借り受け運営している。地域振興に関わる企画であれば場所の貸し出しも可能という。市商工観光課、喜連川観光協会の協力で、モデルを交えての撮影機会を得た。

 撮影にはデジタルカメラでなく、フィルムカメラを選んだ。邸宅を訪れる前に、防湿庫から機材を取り出し、空シャッターで動作を確認する。使用するのは36枚撮りカラーネガフィルム。かつての3倍以上に高騰した1本1500円近い価格には閉口するが、レトロな建築物の雰囲気をプリントで残すには欠かせない。

 邸宅に着き、建物の中に入る。「露出計」を用い、シャッタースピードと絞りの値を決めた。ピントリングを回しながら、ファインダー内のマット面で焦点を合わせていく。広めのレンズには、紗(しゃ)をかけた。

 波板ガラスと障子を通して、奥の和室へわずかな外光が届いていた。日本人の美意識などについて論じる谷崎潤一郎(たにざきじゅんいちろう)の随筆「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」には、「われわれの座敷の美の要素は、この間接の鈍い光線に外ならない」のくだりがある。大正期のこの邸宅には、伝統美そのものというべき空間が随所に存在している。

 記者はもともと写真部員としての採用で、白黒やネガ・ポジカラーフィルムの現像から、暗室でのプリント作業などを経験した。同様の現役社員は社内で4人になった。電話口で「白黒印画紙のドラム式写真電送機覚えているか」などと、昭和の懐古談を交えながら、時代の推移を感じている。

 取材を終え、現像するために写真店に向かった。最近は若い女性を中心にフィルムカメラでの撮影ブームが再燃していると聞く。撮影後にネガフィルムをデータ化し、インスタグラムなどにアップして楽しんでいるという。店主は、若者たちのセンスの良さを褒めていた。

 その場で写真を確認できないフィルムカメラ。「思い通りに写っているのだろうか」。現像の仕上がりを待つ間の高揚感が再来した。