「県南いいね散歩」は、1年間続いた連載を今回でいったん休載します。下野新聞社への企画提案から毎回の制作まで全てを担当してきた白鴎大4年生9人が、ゼミを指導する下村健一(しもむらけんいち)特任教授の司会で活動を振り返ります。

「県南いいね散歩」の取材エピソードや読者からの反応などを振り返るゼミの全4年生と下村特任教授(左端上)=小山市内
「県南いいね散歩」の取材エピソードや読者からの反応などを振り返るゼミの全4年生と下村特任教授(左端上)=小山市内

■わくわくと試行錯誤

 下村 この1年で、一番楽しかった取材は何? 

 森谷(ゼミ長) レトロカフェ[別表2]の取材って、ワッフルを食べに行くのも兼ねてたから、いつもわくわくしてました。

 三浦 里山通信[別表5]での山登りは、登山自体も楽しかったし、のんびりした空間が大好きでした。

 神戸 お弁当なしで登った私たちに食料を恵んでくださって。手作りの浅漬け、めっちゃおいしかった!

 牧野 ブルーベリー狩り[別表16]。冬に初取材して、6月に再訪して、農園主ご夫妻との距離も縮まって。今度皆で、農園のカフェにケーキを食べに行くんです。記事掲載後も交流できることが、楽しくて。

 川野辺 人の話を聴くのが好きなので、どの取材でも新しい事や面白い事が聞けるのを楽しく感じます。

 下村 ただの取材じゃなくてホントに地域交流してて、“いいね”! 一方で、難しかった取材は?

 牧野 太陽君[別表10]を取材する前、障がいについて質問で踏み込んでいいのか最初は探り探りだったけど、ご本人の「障がいは個性」という言葉に魅了されて、どうしたら同い年の彼の魅力を伝えられるか、班で試行錯誤しました。

 下村 悩んだかいがあって、あの記事は読者の皆さんからも太陽君のお母様からも、「素のままを描いてる」ととても評価されたね! 

 岩﨑 レンガ窯[別表11]は、芋づる式に詳しそうな人を見つけても、「ここのレンガが東京駅に使われたかは分からない」という回答ばかりで、どう掘り下げればいいのか…。

 下村 ネット検索すれば答えは得られる、なんてことは全くない。それを思い知らされるよね、このゼミは。

 三浦 足利盲学校[別表14]のヘレンケラーは、他の連載(渡良瀬通信「足利百年カルタ」)用に同校で別件を取材している中でたまたま出合った話だったので、取材が同時進行になって混乱しました。 

 川又 調べてるうちに班全員、訳が分からなくなってしまったけど、皆で助け合って整理しながら、なんとか記事を仕上げました。

 下村 確かに一時期、皆で途方に暮れて、何も書けずに固まってたな(笑)。

 粂川 猫店長[別表13]は、他媒体で既に記事が出ていたので、内容がかぶらないよう意識しました。

 牧野 そう。同じにしちゃマズいと思って、オリジナルにするのが大変で。

 下村 偉いね、このコピペが当たり前の時代に。

 中村 高校生蔵部[別表3]はコロナの影響で主な活動が止まってたので、初めてオンライン通話取材だけになって、実感がないから書くの難しかったです。

 

■つながることに喜び

 下村 本当に、よくぞここまで感染対策の中で皆頑張ってきたね。でも、自分たちの頑張りだけじゃなくて、いろいろと周囲に助けられることもあった?

 森谷 いつの取材も相手の方とは初対面だから、今も一向に慣れなくて、私たち記者の方が緊張していて。でも、取材相手の方は皆さん優しく世間話を挟んでくれたりして緊張がだんだんほぐれて、やりやすい雰囲気をつくってくださいます。感謝しかないです。

 下村 そう。この連載は、取材の主導権を、記者じゃなくて取材対象者が握っちゃうんだよね。そのおかげで、尋ねてもいない深い話が先方から出てきたりして。独特の取材法だな!

 岩﨑 レンガ窯は、記事掲載後に読者の方から「東京ステーションギャラリーに行ってみた?」とヒントを頂け、そこから国会図書館での新たな資料の閲覧までたどり着けました。

 中村 里山通信は、前に別の回で取材した方から情報提供があり、登山初心者の私たちを気遣いながら一緒に登ってくださったからこそ書けた記事でした。

 森谷 うずま川下り[別表12]の時は、取材に伺う時間が先方にうまく伝わっていなくて、現場でウロウロしてたらご近所の方が電話で連絡してくれました。

 下村 読者の方、以前の取材相手、ご近所さん--あらゆる人に助けられて成り立ってる連載だな。中でもうれしかった出来事は?

 川野辺 取材先の人から、掲載後に「友達からこんな反応があった」とか連絡をいただけると、やりがいを感じます。

 粂川 コロナで出番が減ったゆるキャラたち[別表7]に、われわれへの取材対応というお仕事を作れてうれしかったです。ミーナと壬雷(みらい)ちゃん(ゆるキャラ同士)も、お互い会うのが久しぶりと喜んでました!

 岩﨑 太陽君の私たちの記事をNHKの人が読んで、ほとんど同じ内容で取材してくれました。それが放送された後、彼が勤める食堂の店長さんが「初めてのお客さまが増えて笑いが止まらない」とインスタグラムで書いてました。

 牧野 そのことで、いろんな人に読んでもらえていると実感したし、自分たちの記事が人と人とのつながりを広めるきっかけになっていて、うれしいです。

第10回で取材した若きアーティスト飯山太陽君の画。今回の紙面用の挿絵をお願いすると、現4年生が担当した第2~20回の取材先を全て組み合わせてくれました!
第10回で取材した若きアーティスト飯山太陽君の画。今回の紙面用の挿絵をお願いすると、現4年生が担当した第2~20回の取材先を全て組み合わせてくれました!

■地域と新聞 見直した

 下村 自分の中で「地域」とか「新聞」という物の見方に、変化は起きた?

 川又 前は県民なのに「県南って何の特徴もないし、遊ぶとこもないし、つまんないわ~」と思ってたけど、いろんな魅力を見つけることができました。

 粂川 自分が知らなかっただけで、地域には多くのコミュニティーや取り組みが存在しているんだな、と。

 神戸 栃木県を好きな人が、たくさんいるんだなと知れました。

 牧野 私は埼玉県人で、栃木への印象はガラッと変わりました。「興味を持って知れば、その地域のことが好きになれるんだ」と気づきました。おかげで、自分の住む地域にも興味を持つようになりました。

 中村 地域の役に立ちたい、魅力を知ってもらいたいという気持ちは前からあったんですが、実際何をすべきか分かりませんでした。今は取材を通して、何事も行動してみるという気持ちに変わったなと思います。

 岩﨑 いろんな記事作りを同時並行でやっている、プロの記者のすごさを知りました。

 森谷 新聞は堅苦しいイメージだったけど、自分たちが書いた記事が載ってるのを見て、もっと楽しさ重視の記事を載せてもいいんだなと思うようになりました。

 下村 いいね。1月からの新連載も、わくわくキョロキョロ楽しんでいこう!

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 「県南いいね散歩」は、来年1月からお散歩エリアを拡大リニューアルして、同じ白鴎大下村ゼミの制作で新連載として再出発します。主力を3年生にバトンタッチし、来春からは新たにゼミに加わる現2年生も参入予定。お楽しみに!