「いちご一会とちぎ国体」会期前競技開始前日の9日、栃木県市貝町の調整池で開催予定だったオープンウオータースイミング(OWS)が、アオコ発生による水質悪化を理由に中止となった。十分な準備期間があったのに、発生はなぜ防げなかったのか。中止の決定はなぜ直前だったのか。町や、ともに運営を担う県水泳連盟のほか、県の説明からは、それぞれ立場が透けて見える。

アオコが発生し、緑色に濁った競技会場。ボートによるブイの撤収作業が行われた=9日午後

町「防ぎきれず」

 入野正明(いりのまさあき)町長ら町側は12日、町議会全員協議会で中止に至った経緯と町の対応を説明した。「一夜で想像を上回るスピードでアオコが発生していた」などと、対策したがアオコの繁茂を防ぎきれなかったという見解に対し、議員からは疑問視する指摘が相次いだ。

 入野町長は塩田調整池特設会場の水質悪化について「(農業用水として使われて)水位が下がり、荒川からの取水を8月31日から増やして水を3分の2ほど入れ替えたが、晴天が続き、アオコが繁茂してしまった」と説明した。水質判断の基準となる化学的酸素要求量(COD)の値は9月8日に8.9で、「8を超えてはならない」という指摘で中止を決めた。

 町によると、7月のリハーサル大会ではアオコ発生はなく、CODの値は5.6だった。その後水位が下がり、8月30日時点でCODの値は23を超えていた。取水により水位が回復し、9月8日時点で開催に影響はない程度と考えていたが、9日には「一夜で想像を上回るスピードで発生していた」という。

アオコが発生し、緑色に濁った競技会場=9日午後

 議員からは「大会を塩田調整池で開催することは2年目から分かっていた。アオコが発生するのも分かっていた」「わずか1日や2日でこうなるというのはおかしい」などと疑問視する声が相次いだ。

 開催準備を担う町国体推進室は、4月の人事異動で全員が入れ替わった。推進室は取材に「前任者から、アオコ発生について県の指導があったとの引き継ぎはなかった」とし、県水泳連盟との情報共有についても「4月から2、3週間に1度、池という特殊な環境で行う大会に何が必要かをメインに話していた。アオコの話は出ていなかった」と弁明した。

県水連は違う見解

 「町の調整池で競技をやると決まって以降、日本水連や県水連、県や町の関係者で何度か現場を視察していた。夏場にアオコが出てしまうことは町も分かっていただろうし、私たちも警戒していた」。

 県水泳連盟の直井浩(なおいひろし)OWS委員長(60)は見解を異にする。入浴剤を入れたような緑色を見て「この状況では泳げない」という話を当時、町側にも伝えていたという。

 8月下旬に町から「水量が少ないが、大会まで2週間あるので水を増やせば間に合う、CODの値も薄まる」と聞いていた。結局水は増えたが、改善しなかった。アオコ発生の状況が、レース開催が危ういレベルと知ったのは大会直前だった。

 「水質管理という基本的な準備の部分について町側と危機意識の共有が足りなかったのは事実。もっと厳しくチェックすべきだった。私たちも甘かったのは確か」

 話には町への不信感がにじむ。

 水質改善のための薬剤の使用を提案したり、「現場を見ないと絶対に分からないから」と、先催県のリハーサル大会視察に町の責任者の同行を求めたりしてもかなわなかったという。

緑色に染まった会場の水面を見て驚き、写真に残す沖縄県の選手と監督=10日午前

 会場となるはずだった調整池はすり鉢長の形状のため、観客が上部からレースを見やすいという利点があった。「海などでやる場合はスタートとゴールしか見えず、レース展開の把握も難しい。今回の場所は、日本水連の関係者も評価していただけに本当に残念」と無念さを吐露する。

 4月の人事異動にも言及する。「一生懸命やってくれていた担当者がなぜか代わってしまった。普通、4月の段階はどの競技も準備がほぼ整っている段階なのにOWSの場合、その時点から再スタートの状態になった。そんなことがあるのか」

 準備の対応が後れ、後手に回った結果、本来町がやるべき業務を県水連がやったこともあったという。

 「全国から国体のために集まってくれた選手、監督の方々、開催のために協力してくれた競技関係者に本当に申し訳ないです」

知事は陳謝

 福田富一(ふくだとみかず)知事は12日の定例記者会見で、オープンウオータースイミング(OWS)の中止について「県にも大きな責任がある」と認めた。会期前競技開始を直前に控えた中での大きな不手際。「開催県として中止を重く受け止め、今後、開催されるいずれの競技でも主催者間でしっかりと連携し、円滑な運営ができるよう取り組む」と述べた。

 会見の冒頭、「これまで努力をしてきた選手、監督の皆さんに大変申し訳なく思います」と頭を下げた。中止の要因となった調整池の水質悪化について「アオコの発生状況は、9月7日午後に報告を受け、急きょ市貝町や県水泳連盟、日本スポーツ協会などと対応を協議した」と経緯を説明した。

定例記者会見で競技中止について陳謝する福田知事=12日午後、県庁

 中止の決定は競技前日で、当然、選手はすでに来県していた。「県代表となるのも、ブロック大会を勝ち抜くのも至難の業。競技を翌日に控えての中止の決定。察してあまりある」とうつむいた。「郷土を離れる前なら、理由がしっかりしていればある程度納得がいくかもしれないが、(今回は)納得できない選手がほとんどだと思う」と選手の不満を受け止めた。

 その上で「もっと早く対応し、水質の専門家の意見を聞けばアオコの発生を抑えることができたかもしれないし、競技の開催もできたかもしれない。情報共有ができていなかったがゆえにこのような事態を招き申し訳ない」と謝罪した。

 記者から責任の所在を問われると、「(市貝町、県、競技団体の)3者だと思う。しかし実際に現場で状況の確認をできるのはやはり競技開催自治体(である市貝町)」と指摘した。

 会場の状況の変化を競技団体や県に逐次報告することを怠ったことが今回の結末につながったとの認識を示し「情報の共有がそもそもできなかった。その仕組みをつくってこなかった県にも大きな責任がある」と重ねて陳謝した。