若林正恭さん

 『青天』(文芸春秋)

 直木賞の受賞作を張り出す担当者。若林さんの落選が決まった瞬間だった=7月15日夜、東京都内

 直木賞に決まった朝倉かすみさん(左)と、芥川賞に決まった小砂川チトさん=7月15日夜、東京都内

 若林正恭さん  『青天』(文芸春秋)  直木賞の受賞作を張り出す担当者。若林さんの落選が決まった瞬間だった=7月15日夜、東京都内  直木賞に決まった朝倉かすみさん(左)と、芥川賞に決まった小砂川チトさん=7月15日夜、東京都内

 第175回芥川賞・直木賞の選考会が15日、東京都内で開かれ、芥川賞には小砂川チトさんの『ゾンビ回収婦』(「群像」5月号)、直木賞には朝倉かすみさんの『けんぐゎい』(光文社)が選ばれた。共に3回目の候補入りでの受賞決定。初小説『青天(あおてん)』(文芸春秋)が直木賞にノミネートされたお笑いコンビ「オードリー」の若林正恭さんは受賞を逃した。(取材・文 共同通信=平川翔)

(1)計算のない、光る表現

 直木賞選考委員の作家、辻村深月さんは選考会後に取材に応じ、『青天』について「伸びやかで、光る表現がある。いい意味で計算をしていない、身体性を伴う文章が魅力」と評価した。

 一方、作品の舞台を若林さんが青春時代を過ごした1990年代の東京にしたことについて、現代の読者への訴求力という観点から賛否があったと明かした。直木賞はノミネートを重ねて受賞に至るケースが多く、辻村さんは「この先にどんなものを書かれるのかを見てみたい」と今後の執筆へのエールを送った。

 『青天』は、若林さんが学生時代に打ち込んだアメリカンフットボールを題材にした青春小説。高校のアメフト部の選手を主人公に、激しくぶつかり合うスポーツの躍動感と挫折を描いた。

 テレビでおなじみの人気タレントの初小説が、伝統ある文学賞にノミネートされたことで注目され、東京都内の記者会見場には通常よりも多くの報道陣が集まった。

(2)1回目の投票で圏外に

 辻村さんによると、1回目の投票で朝倉さんの『けんぐゎい』と、蝉谷めぐ実さんの『見えるか保己一』(KADOKAWA)が同点となり、若林さんの『青天』など3作はあえなく受賞圏外に。残った2作による決選投票を満票で制したのが『けんぐゎい』だった。

 『けんぐゎい』は江戸を舞台にした時代小説。主人公のふゆは顔中にあばたがあり、奉公先の手習い所で理不尽な目に遭う。やがて産科医として自立し、さまざまな事情を抱えた女性たちが支え合う独自のコミュニティーを創り上げていく。題名は、ある登場人物が主人公に対して言い放つ「圏外」という言葉を強調した造語に由来する。

 朝倉さんにとって初の時代小説で「藤沢周平のような作品を書くつもりだったのに、書いても書いても藤沢周平にならなかった」と冗談めかして振り返る。

 選考委員からは「つらい場面から始まるが、伸びやかな筆で、それを凌駕するパワーがある」と高い評価を受けた。朝倉さんは「小1くらいの語彙でラブレターを書いている感じだった。それが伸びやかさという印象になったのかも」と笑顔で話した。

(3)人なつっこい作品を

 芥川賞に決まった小砂川さんは「人生にこんな日が来るとは…。胸がいっぱいです」と感激した様子で語った。受賞作は、人工知能(AI)に仕事を奪われたという夫のいる主人公が、仮想現実(VR)のゲームの世界で、プレーヤーに撃たれたゾンビの残骸を掃除する仕事に就く物語。

 選考会では、単純作業に情熱を燃やす主人公の描写を通じて、効率重視の社会の風潮に疑問を投げかけたと評された。「働き方、生き方、価値観について、『歯車的』なほうが楽で、自分で決めていくのが難しいという方もいる。進歩だけでなく、この場にとどまりたい、ゆっくりしたいという方もいる。一律ではないような世の中であればと思う」

 今後の抱負を問われると「格好良さとかわいらしさがあり、人なつっこい作品を送り出していけたら」と語った。