
国内最小クラスの小島酒造店(塩谷町風見)は、代表の小嶋拓(こじま・たく)さん(46)がほぼ1人で日本酒を醸す典型的な家族蔵だ。今年5月、代表銘柄「かんなびの里」を初めてリブランドし、新たなスタートを切った。そこには自社の酒蔵の歴史と社会的役割、国内最小級という「強み」を見詰め直し、新たな価値を提供していくという思いが詰め込まれている。
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小島酒造店は約150年の歴史を持ち、小嶋さんで6代目になる。2019年7月に合資会社の代表社員として経営を継いだが、翌年には新型コロナウイルス禍に襲われ、酒造業界の様相は一変。日本酒需要が極端に落ち込み、小島酒造店も消毒用の高濃度アルコールを製造販売してピンチを乗り切ったという。
小嶋さんは東京農業大醸造科学科を卒業後、緑川酒造(新潟県魚沼市)で2年間修業して戻った。父の治(おさむ)さんとともに酒造りに励む一方、塩谷町商工会青年部や消防団などの地域活動に積極的に取り組んだ。商工会では経営セミナーといった勉強会に参加し、マーケティングなどを学びながら中小企業診断士の派遣事業も受け入れた。この時、派遣されたのがコンサルティング「ネオクラシック」(大田原市)の柴田幸紀(しばた・こうき)さん(49)だった。
柴田さんは、小島酒造店の「最小クラス」を、磨き上げるべき独自の強みだと捉えた。その戦略を練る指針としたのが、顧客、競合、自社の3要素を分析する「3C分析」だ。商圏内に競合相手がいても同じ土俵で戦わない「独自化」の必要性を強調。その強みを最も知っているのは購入してくれる客自身だと説いた。
柴田さんは「よく経営者の皆さんにはお客さまの声を聞くことが重要だと言うんですが、多くは忙しくてなかなか実行できないのが現状ですね」とした上で、「その点、小嶋さんは行動力があり、すぐ実行した」と感心する。
小嶋さんは蔵を訪れる客へのヒアリングに加え、道の駅では地元の和菓子店主とともに店頭に立ち、「なぜ『かんなびの里』を購入するのか」を直接、客に問い続けたという。
小嶋さんはコロナ禍の時を「倒産がよぎった」と振り返る。追い詰められながらも「柴田先生の指導など、これまで勉強してきたこともあり、今後どうするか、じっくりと考えることができた」という。
「かんなびの里」は40年ほど前、父の治さんが「新郎」という従来の銘柄に加え、より品質を追求した純米酒や吟醸酒などの「特定名称酒」として立ち上げた自信作。自蔵の代表銘柄になっている。小嶋さんはこの代表銘柄に小島酒造店ならではの「強み」を持たせるため、リブランドに着手。「歴史を引き継ぎ未来へ」をテーマにした。「かんなびの里には父なりの思い入れがあるが、何よりそれを自分の言葉で語れるようにしたかった」と明かす。
かんなびの里とは、神々が降臨してくる静寂な田舎里という、まさに風見地区を言い表していた。しかも小嶋家の祖先は宇都宮氏の出城があった同地区の神職であり、栃木県指定無形文化財「風見代々神楽」も小嶋家本家が中心になって伝えてきた。リブランドでは、こうした小嶋家や地区の歴史をしっかりと見詰めることが他にはない自蔵の強みだと捉えた。そして社会的役割を考えたとき、地域を中心に栃木県内で残していく酒文化を伝えていくことと位置付けた。
小嶋さんは「歴史をマーク化できれば、いろいろなことを伝えられる」とラベルをリニューアルに取り組んだ。従来のラベルは父・治さんが小学校の恩師に書いてもらった筆文字だけだった。このため筆文字はそのまま残しつつ、背景に小嶋家の家紋「左三つ巴」を入れ、歴史の深さを表現しようとした。
ただ、ラベルのデザイナーに相談したところ、家紋そのものは商標登録できないことが分かった。「であるなら白黒を反転させた意匠を使うことにした。この意匠は風見代々神楽を神々が舞う姿(円運動)のようなしなやかな流れと小嶋家の家紋を掛け合わせたものになった」と説明する。
取り組みのもう一つは商品の見直しだ。本醸造酒、吟醸酒、大吟醸酒、純米酒、純米吟醸のラインアップを、純米酒、純米吟醸酒だけに絞り込んだ。「いろいろな料理にペアリングできる食中酒」をコンセプトに据えた。
純米酒は「あさひの夢」を精米歩合60%、純米吟醸酒が「夢ささら」同50%でそれぞれ醸し、いずれも味わいや香りが1ランク上の純米吟醸、純米大吟醸クラスの仕様になっている。上槽(醪を搾ること)も酒袋に醪を入れ、3日間かけて酒袋の重みだけで酒が自然にしたたり出る手法で搾った。雑味の少ないソフトな酒質で競合他社との差別化を図り、女性や若者にも受け入れられるよう提案。価格も720ミリリットルで1964円、3300円とし贈答に利用しやすくした。
大きな壁となっているのは、酒原料米の価格高騰だ。現在新酒として出回っている25酒造年度の米価は、前年の約2倍にまで跳ね上がり、各地の酒蔵を悩ませている。
この窮地に、小嶋さんは異例の決断を下した。既に炊き込んであり水を含ませれば食べられる災害時の非常食「アルファ化米」を醸造に取り入れたのだ。価格面では通常の酒米に比べ少し安いくらいだったが、蒸し工程が不要なため燃料費や手間を大幅に削減でき、低コスト化につながった。「醸造には高いノウハウが必要だが、香味は遜色ないレベルで造れた。こうした大胆な試みができるのも、小回りの利く小さな蔵だからこそ」と、強みを挙げた。
同じ風見地区で商工会など地域活動で連携する仲間は小島酒造店でよく集う。吉野製作所社長の手塚義法(てつか・よしのり)さん(45)は「私も消防団を契機にかんなびの里や新郎を飲むようになったが、日本酒は“お袋の味”とも言われ、最初に親しんだ味がやはりおいしい」と話す。「(拓さんの)酒造りを見ているし、いろいろと苦労しているのも知っているので思い入れが違うかもしれないが、地元の風見に酒蔵があることは風見の魅力ですし、誇りですね」と評する。
小嶋さんは「『小ささ』を強みにすることは『希少性』に価値を認めてもらうこと。極端な話、シリアルナンバーの付いた1本10万円するような酒になれば面白い」と笑う。志は高く、日本酒を愛する人が「一度は飲んでみたい」と憧れる存在にしたいと考えている。
少なくとも「栃木でしか飲めない買えない食中酒」として県内25市町で1店舗ずつ取引店を整えるのが目下の目標だ。どのように変貌するのか、国内最小クラスの蔵の挑戦に注目したい。
(伊藤一之)

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