
日本酒を味わう会や試飲会は栃木県内でも酒蔵、飲食店が主催したり、地域イベントの中で開かれたりすることがよくある。ただ小売酒販店が開くのは珍しく、個性があり、「想定外」に遭遇できる楽しみが何ともたまらない。なじみ客に対する感謝の意に加え、日本酒ファンの拡大に向け日本酒のおいしさに触れてもらい、親しみやすくしようという狙いもある。リーズナブルな参加料も魅力の一つだ。皆さんも機会があれば、参加することをお勧めする。
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さくら市氏家にある小売酒販店「けんもく商店」の顧客有志でつくる「楽酒の会」の有料試飲会が5月16日、JR氏家駅前のテント付きの屋外施設「さくらスクエア」で開かれ、45人が参加した。
この会は25年ほど前、常連客が店頭で月1回、日本酒を親しんだのが始まりだという。ただ当時は焼酎がブームで、日本酒は押されていた。同店では珍しい日本酒も取り扱っていたことから、日本酒の魅力を発信しようと、参加希望者の枠を広げ、年1回、会を居酒屋で開くようになった。
2019年にはJR氏家駅前の展示施設「さくらテラス」で開催したが、翌20年に新型コロナウイルス禍で中断し、再開できたのは22年春だった。会場を隣にある屋外のさくらスクエアに移すことで再開にこぎ着けた。
けんもく商店は、銘柄「仙禽(せんきん)」を醸すせんきんのすぐそば。代表商品の「仙禽」など栃木県地酒を取り扱うほか、全国でも人気のある「而今(じこん)」「林(はやし)」「加茂金秀」「幻舞(げんぶ)」「佐久の花」「くどき上手」といった県内では珍しい酒を取り扱う。
女将の見目京子(けんもく・きょうこ)さん(70)は、今では超人気銘柄の「而今」を取り扱い始めたきっかけを教えてくれた。京子さんは若かりし頃、県酒造組合主催の「全国きき酒選手権大会県予選会」で優勝した鋭い五感の持ち主だ。21年前、新たな銘柄の蔵元と取引しようと、都内の商談会に出向いたが、当初予定していた蔵元との取引はかなわなかった。会場を巡る中、出店していた「而今」を試飲した。当時の而今はまだ人気の出る前。一口味わって「これは伸びる(人気が出る)」と思い、特約店になることを決めたという。
再開後の22、23年の有料試飲会は、而今だけ8種を飲み比べできるレアな会だった。現在の「楽酒の会」有料試飲会は、而今だけではなく、いくつかの銘柄も入る。「而今だけだと飽きちゃうので」と京子さん。何ともぜいたくに思える。
そして24年からは春と秋の年2回開催に。しかも冒頭は銘柄を隠して酒を味わい、好きな酒を挙手する“お遊び”を行う。五感を研ぎ澄ましながら試飲を楽しむことで、ブラインドが外され、初めて味わった銘柄が分かる仕組みだ。
この日明かされた銘柄は、原料米違いの「而今」4種と「花邑」「佐久の花」「桜吹雪」「十八盛」。いずれも純米大吟醸クラスの生酒だ。日本酒好きにとっては極上の味わいで、初めて出会う銘柄は“想定外の遭遇”を楽しめる。しかも「試飲」といっても、つまみ弁当を食べながらお替わり自由で飲めるのが、この会の魅力となっている。
日光市から来たという60代の男性会社員は「而今はなかなか買えない酒ですが、この会に参加すれば、而今が飲めるし、ほかにも全国のすごい銘柄を飲めるのが魅力ですね」と杯を傾けた。4、5回参加しているという宇都宮市の男性会社経営者(55)も「いつもワクワクしながら参加する。本当においしいお酒をもったいぶらずに全部出してくれる。これだけの酒が飲める会ってそうはないでしょう」と楽しんでいた。
6月6日には、宇都宮市大谷町の「菊地酒店」で「大谷で美味しいお酒と料理を楽しむ会」が開かれた。大谷街道(県道宇都宮-今市線)に面した同酒店の駐車場でテントを張って開くこの会は2015年から始まり、今回で14回目。この日は32人が参加した。
今回は菊地酒店が仕入れた日本酒を長期熟成させた秘蔵の古酒と、フレンチ×薬膳の総菜専門店「オードヴィ」(鹿沼市天神町)も運営するフレンチベジレストラン「アンリロ」(鹿沼市上材木町)の料理を味わうのが目玉だ。両者がこの会を開くのはコロナ禍の中断もあっため、7年ぶりになる。
会では冒頭、上村真巳(かみむら・まさみ)シェフから今日の料理のテーマを「6月のアジサイの花」にしたという説明があった。理由について「アジサイって、だんだんと色が変わっていく花なんですよね。なので、花が変わっていく姿を、熟成して味わいが変わる日本酒に例えて、味の変化を味わっていこうと、バラエティーに富んだ料理を用意しました」と話すと、場が一挙に盛り上がった。
料理は何と15種類。豚もつの白ワイン煮、鶏のトマト煮、サケのかま焼き、マーボーナス、スペアリブの煮込み、サバとジャガ芋のアンチョビーサラダ、イカととキュウリのマリネなど目移りする料理ばかりだ。
乾杯の酒も菊地酒店など有志で企画し、大谷地区のお米で造ったオリジナル日本酒「botti(ボッチ)」だ。わらで編んだ米俵のふた「たわらぼっち」から名付けられた。ぼっちには「点」という意味もある。点ともいえる有志が集まり、大谷地区の活性化へ活動の輪を広げるという願いも込められており、この会にふさわしい酒になった。
そして日本酒が次々に出される。最初にbottiや静岡県の銘酒「磯自慢 大吟醸」の10年熟成ものなどの飲み比べを楽しんでいると、20~30年間熟成させた新潟県や福島県などの古酒が回ってきて注がれていく。私自身、味わったことのない円熟した古酒のオンパレードは“想定外の遭遇”の連続となった。30年前の「天鷹 特別純米原酒 生詰」が注がれると、天鷹酒造(大田原市)から来た蔵人たちも「俺たちも見たこともない酒」と味わい、「あの酸味は勉強になった」と感心していた。
5回ほど参加しているという宇都宮市の男性(51)は「この会の魅力はやっぱり、普段では飲めないレアな古酒が出てくること。自宅で特別な冷蔵庫がないと熟成なんかできませんからね」とじっくりと味わっていた。前橋市から来たという50代女性は「アンリロさんの料理を味わえるチャンスだと思い、申し込みました。料理はもちろんおいしいですし、古酒ってこういうものなんだってを初めて知りました。本当にね、いい体験させてもらいました」と満足していた。
けんもく商店の有料試飲会では人気銘柄の純米大吟醸を存分に味わえ、菊地酒店の楽しむ会ではおいしい料理と普段触れられない熟成日本酒を堪能できた。これら“想定外の遭遇”は、日本酒好きはもとより新たな日本酒ファンを引き付ける魅力が十分あった。
そして参加料はけんもく商店が6千円、菊地酒店が5千円と参加しやすい、うれしい設定。菊地酒店の参加料に対しては「通常なら1万円払っても飲食できないレベル」という声も聞かれたほどだ。両イベントとも参加者の要望もあり、今秋にも開催する方向という。開催が決まれば、日本酒好きには一度足を運んでもらいたいと思う。(伊藤一之)
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