― 税理士の守秘義務を技術で守る、Governance by Designの設計思想。 Microsoft Foundryを基盤に、2026年9月末より提供開始 ―
株式会社TKC(本社:栃木県宇都宮市、代表取締役社長:飯塚真規、以下「TKC」)は、このたび中小企業向けのクラウド会計システム「FXクラウドシリーズ」に組み込んだAIエージェントして「FXエージェント」を、TKC会員(TKC全国会の税理士・公認会計士)向けの業務管理システム「OMSクラウド」に組み込んだAIエージェントとして、「OMSエージェント」を新たに提供します。本年7月にプロトタイプを公開し、9月末から順次提供を開始します。

両エージェントには、3つの大きな特長があります。
第一に、関与先企業の財務・請求・給与といった秘匿性の高いデータの漏えいを防ぐためのルールを製品設計に組み込んでいること(Governance by Design:設計の段階から守りを組み込む考え方)。第二に、AIエージェントを単独の新サービスとして提供するのではなく、顧客が日常的に使っているTKCシステムの中で動作するように設計していること(Platform-Native AI:TKCのシステム専用に設計されたAIエージェント)。第三に、AIエージェントだけで業務を完結させるのではなく、税理士や関与先企業の経理担当者が必ず確認・承認するプロセスを組み込んでいること(Human in the Loop:人間が確認のループに必ず関わるしくみ)です。
●代表取締役社長・飯塚真規コメント
「会計事務所が顧客に対して負っている法律的な責任は、ITの進化によって軽くなるものではありません。むしろ、AIが関与先企業のデータに触れる時代においてこそ、その責任の重みは増しています。
TKCは、この責任を会計事務所だけに負わせるのではなく、システムを提供する当社自身もその責任を感じながら技術的に顧客を支えるしくみを構築してきました。この考えは、AIエージェントの開発においても変わることはありません。
AIはあくまでも税理士・公認会計士の判断を支える存在であり、最終的な専門的判断は必ず人間が行う ─ この原則を、製品設計そのものに組み込んでいます。便利さと引き換えに、関与先企業のデータの安全を犠牲にすることは、TKCの選択肢にはありません。
当社創業の理念である『自利トハ利他ヲイフ』─ 会計事務所の先生方が関与先企業の発展に尽くされる、その職業的責任と事業環境の整備を、TKCは技術によって支える存在でありたいと考えています。」
株式会社TKC 代表取締役社長 飯塚真規

1.提供の背景
生成AIの業務活用が急速に広がる一方で、会計事務所が取り扱う関与先企業のデータは、財務情報・給与情報・マイナンバー・請求書・契約書・税務情報など、極めて秘匿性が高いものばかりです。これらのデータをAIに処理させる場合、税理士法が定める守秘義務(税理士法第38条:秘密を守る義務、第54条:税理士の使用人等の秘密を守る義務)や、個人情報保護法が定める第三者への提供制限(個人情報保護法第27条:第三者提供の制限、第28条:外国にある第三者への提供の制限)を蔑ろにすることはできません。これは、会計事務所の職業的責任そのものに関わる問題であるためです。TKCは、これまで60年にわたり、会計事務所の基幹業務を支える情報サービスを提供してまいりました。FXクラウドシリーズは中小企業の業績管理システムとして、OMSクラウドは会計事務所の業務管理システムとして、顧客の経営の基盤となっています。
今般のAIエージェントの提供にあたり、TKCはこれを既存システムの外側に独立したサービスとして構築するのではなく、FXクラウドシリーズおよびOMSクラウドの内部に組み込む設計を選択しました。これによって、関与先企業のデータを守りつつ、AIエージェントを活用するしくみが実現します。これが、TKCの考える「Governance by Design」です。
2.提供するAIエージェントの概要
(1) FXエージェント ― 中小企業向けFXエージェントは、TKCが中小企業向けに提供しているクラウド会計システム「FXクラウドシリーズ」に組み込んだAIエージェントです。日々の会計・請求・給与計算業務において、経営者・経理担当者を次の観点から支援します。
1)仕訳入力の自動化(過去の確定済み仕訳パターンの参照)
2)インターネットバンキングや業務システムとの自動データ連携
3)Webサイトに掲載されるインボイスの回収自動化
4)要注意仕訳の抽出(月次チェック報告書)
5)FX2クラウド(会計、販売管理、給与計算)の横断分析と作表支援
6)経営計画の策定と資金繰り予想の支援
7)経理実務・仕訳に関する一般的な質問への回答
FXエージェントは、TKC会員を通じてFXクラウドシリーズとともに関与先企業に提供されます。これによって、会計事務所による月次巡回監査と組み合わせた形で、品質が担保された自計化(企業が自社で日々の記帳を行うこと)が実現します。
(2) OMSエージェント ― 会計事務所向け
OMSエージェントは、TKC会員向けの業務管理システム「OMSクラウド」に組み込んだAIエージェントです。OMSクラウドに蓄積された関与先企業の財務情報・税務情報、および会計事務所内に蓄積されている業務データ(日報・巡回監査報告書・スケジューラ等)をもとに、以下の業務を支援します。
1)巡回監査の効率的な実施
2)税務と会計の一気通貫(デジタルシームレス)の強化
3)国税庁のチェックリストとのクロスチェック
4)経営助言のための財務分析支援
5)所内の業務知識・ナレッジ・過去事例の蓄積と学習支援
6)関与先企業からの問合せに対する回答のドラフト生成
7)進捗管理やワークフロー(TKCワークストリームクラウド)との柔軟な連携による業務効率化支援
OMSエージェントは、会計事務所の日常業務に自然に組み込まれ、専門家による判断を支援します。AIが税理士の判断を肩代わりするのではなく、税理士がより質の高い判断をより短い時間で下せるようにすることが目的です。また、会計事務所の生産性向上に貢献します。
3.3つの特長
冒頭でご紹介した3つの大きな特長 ── Governance by Design、Platform-Native AI、Human in the Loop ── について、それぞれ詳しく説明します。(1) セキュアなAIエージェント ― Governance by Design
TKCが採用した「Governance by Design」は、関与先企業のデータを守るためのしくみを、製品の外側に付け加えるのではなく、製品設計そのものに組み込む考え方です。
具体的には、両エージェントは独立したサービスとしてではなく、FXクラウドシリーズおよびOMSクラウドの内部に組み込まれた機能として動作します。これにより、関与先企業のデータが、TKCが管理するシステムの境界を越えて外部に流出する経路は、設計上そもそも存在しません。データの安全性を、運用のルールではなく、製品アーキテクチャ(製品の構造)そのものによって担保しています。
Microsoft Foundryを基盤として採用することで、エンタープライズグレードのセキュリティ境界、アクセス制御、暗号化(保存時・通信時)、および完全な監査ログを、TKC独自の業務知見と組み合わせて提供します。これらの技術基盤については、後述の「4. 基盤となるAI環境」で詳しくご説明します。
(2) システム統合型 ― Platform-Native AI
両エージェントは、独立した新サービスとしてではなく、会計事務所や中小企業がすでに日常的に使っているTKCシステムに組み込んだ機能として提供します。システム統合型であることには、3つの重要な意味があります。
●第一に、AIが動く範囲がはっきりしています。FXエージェントは中小企業の会計・請求・給与計算業務、OMSエージェントは会計事務所の業務という、決められた業務の範囲の中で動作します
●第二に、関与先企業のデータが常にTKCのシステムの内部で処理されます。データがシステムの外に流れ出る経路は、設計上そもそも存在しません
●第三に、税理士法および個人情報保護法に基づく責任体系が、システム全体のしくみと一貫した形で設計されます
これらの取り組みによって、税理士法および個人情報保護法の要請に対応するシステム構造が実現し、両AIエージェント利用者のコンプライアンス遵守を支援します。
外部AIツールからの直接接続は提供しません
システム統合型という設計思想のもとに、FXエージェントおよびOMSエージェントはTKCシステムの中で動く機能として提供されます。市販されているChatGPTなどの外部の汎用AIサービスから、TKCシステム内のデータに直接アクセスするしくみ(技術的にはMCPサーバーと呼ばれます)は、この製品設計の思想とは相容れないため提供しません。
これは外部接続を「閉じている」のではなく、法律業務を行う専門家が利用するAIエージェントであるがゆえの安全装置(セーフガード)という位置づけです。この設計は、以下の法的要請に対応するものです。
●税理士法は、税理士業務で知り得た秘密を正当な理由なく漏らすことを禁じています。そのため、関与先企業のデータをAIで処理する場合は、業務上必要な範囲で、基盤モデルの学習等に使用されない安全な環境を利用する必要があります
●個人情報保護法第28条では、海外の事業者に個人データを提供する際には、本人の同意が必要と定めており、海外のAIサービスへのデータ送信は、関与先一社ごとに同意を取ることが前提となります
●AIへの入力・出力の記録が第三者に漏えいした場合、税理士法に定める守秘義務に抵触することになります
TKCは、これらの法的要請を踏まえた製品設計とすることで、利便性と安全性が両立できるAIサービスの提供を目指します。
(3) 必ず人間が確認・承認する ― Human in the Loop
両エージェントは、AIが自律的に判断して業務を完結する設計ではありません。税理士または企業の経理担当者が必ず確認・承認するプロセスを組み込んでいます。これによってAIエージェントの支援のもとで、誰が・いつ・どのような決定を下したかを記録し、明確にします。
Human in the Loopは、日常の業務における確認・承認のプロセス、AIの推論範囲を限定する設計判断、税理士の専門的判断をAIの継続的な改善に活かす学習のループ、そしてすべての操作の記録による証跡の保全という、4つの側面で機能します。
AIと人間の役割分担
具体的には、AIの役割は以下に絞られます。
●業務上の論点や選択肢を整理して、利用者に提示する
●過去の事例やデータに基づく参考情報を示す
●確定済みの仕訳パターンの参照、異常値の検知、文書の下書きなどの一次処理を担う
●最終判断に必要な情報を、判断する人が分かりやすい形に整理する
一方、以下の確認・判断は必ず人間が担います。
●税務・会計上の最終判断
●関与先企業への助言内容の決定
●巡回監査報告書・税務申告書などの最終承認
●AIが提示した内容が妥当かどうかの確認
また、AIが提示する内容については、その根拠となるデータや過去事例を併せて表示することで、利用者がAIの提案を批判的に検証できるよう設計しています。これによりAIの提案を無批判に受け入れてしまう「自動化バイアス」のリスクを軽減します。
この設計を採用した理由は、3つあります。
第一に、税理士法では「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」は税理士だけが行える業務と定められています。そのため、これらの税務判断は税理士によらなければならず、AIがその判断を代わりに行うことは、法的にも職業倫理的にも認められません。
第二に、税理士法第41条の2では、税理士が使用人その他の従業者を使用するときは、税理士業務の適正な遂行に欠けるところのないよう当該使用人その他の従業者を監督することとされています。AIを業務の一部に組み込む場合も、AIが出した結果を税理士が確認し、その適法性を確認できる形でなければ、この監督義務を果たすことができません。
第三に、AIを業務で活用した場合であっても、その税務判断の過程が記録されていることが、説明責任の基盤となります。
Human in the Loopの設計は、AIの能力を制限するものではありません。AIの処理能力と人間の専門的判断を組み合わせることで、AIだけでも人間だけでも到達できない業務品質を実現するためのものです。TKCは、AIを専門家の代替ではなく、専門家の判断を支えるパートナーとして位置づけています。
AIの推論範囲を限定する設計判断
両エージェントには、AIが「推論」する範囲を限定し、確実なパターンマッチングで処理できる範囲を敢えて設けるという設計判断を組み込んでいます。
例えばFXエージェントは、関与先企業の仕訳を生成する際、AIエージェントに「この取引はおそらく消耗品費だろう」と推論させません。過去に税理士によって正確性が確認された確定済みの仕訳パターンを参照し、その中から最も妥当な仕訳を選択する設計を採用しています。
この設計判断は、TKCが分析した結果に基づいています。分析では、ある関与先企業における特定の取引先との取引について、計上される勘定科目の組み合わせが1つであるケースが約7割を占めるという事実が明らかになりました。確実なパターンマッチングで仕訳を生成できる範囲を最大化することで、AIの不確実な推論によるリスク(ハルシネーション:AIが自信を持って事実と異なる回答を生成する現象)を構造的に排除し、税理士による検証を容易にしています。
パターンが定まらない例外的なケース ── 新規取引先との取引や、これまでにない種類の取引など ── については、AIは判断を保留し、関与先企業の経理担当者または税理士に判断を委ねます。AIが推論で答えを出すのではなく、人間の判断が必要な場面を明確に示す設計です。
これは、TKC会員が巡回監査によって「会計帳簿の証拠力」を確認し、かつ関連法規にもとづいて会計帳簿を蓄積してきたデータ資産があってこそ実現できるアプローチであり、TKC独自の構造的な強みです。
会計事務所が関わるAIの学習ループ
Human in the Loopは、日々の業務における確認・承認だけでなく、税理士の専門的判断をAIの継続的な改善に活かす学習のループとしても機能します。
TKCは、TKC会員に対して「月次巡回監査」(関与先企業を毎月および期末決算時に訪問し、会計資料並びに会計記録の適法性、正確性及び適時性を確保するため、会計事実の真実性、実在性、網羅性を確かめ、かつ指導すること)を推奨しています。
FXエージェントは、この税理士によって正確性が確認された確定済みの仕訳パターンを参照して、新たな仕訳を生成します。そして、関与先企業によって新たに記帳された仕訳の正確性は、会計事務所による月次巡回監査を通して確認され、確定済みの仕訳として、FXエージェントの参照対象に追加されます。この学習ループが、FXエージェントの継続的な精度向上に結びつきます。
●関与先企業が、FXエージェントに仕訳の生成を指示し、FXエージェントは月次巡回監査によって正確性が確認された確定済みの仕訳データを参照して仕訳を選択
●税理士が、FXエージェントが選択した仕訳および新規の仕訳を月次巡回監査で確認し、その正確性を確認
●正確性が確認された仕訳が、確定済みパターンとしてFXエージェントの参照対象に追加される
OMSエージェントについても、会計事務所による業務上の判断・修正の履歴をもとに機能改善に反映していきます。
こうした学習の構造化は、月次巡回監査を基本業務とするTKC会員の業務と、月次巡回監査を前提に設計されたTKCシステムが組み合わされて初めて成立するものであり、業界において他社が容易に模倣できない、TKC独自の構造的な優位性です。
すべての操作の記録
Human in the Loopを実効性のあるものとするためには、人間の確認・承認の履歴が確実に保全されている必要があります。両エージェントは、入力、出力および利用者の判断結果をすべて記録・保管します。これにより、税理士法第41条の2が定める使用人等に対する監督義務を技術的に支えるとともに、関与先企業からの問い合わせや、税務調査などにおける説明責任に対応できる体制を整えます。
4.基盤となるAI環境 ― Microsoft Foundryの採用
両エージェントの基盤となるAI環境(大規模言語モデルが動く環境)には、Microsoft Foundryを採用します。Microsoft Foundryは、企業向けに高い水準の安全性・統制機能・法令対応を備えているAI開発・運用基盤です。TKCがMicrosoft Foundryを採用した理由は、以下の通りです。
●入力データや生成結果は、他の顧客やモデル提供事業者に共有されず、AIモデルの学習にもデフォルトでは使用されません。また、必要に応じてゼロデータリテンション構成を適用することで、ログ保存を行わない構成も選択可能です
●どのモデルが、どのデータに、どのような処理を行ったかを、すべて記録・確認できる監査ログ機能を備えています
●企業向けに必要とされるセキュリティ境界、アクセス制御、データ暗号化(保存時・通信時)の機能が標準で提供されています
●推論先が国内に閉じるデプロイタイプを指定してデプロイする場合には Microsoft Azureの国内拠点でデータが処理されるため、データの所在地に関する関与先企業からの要請にも対応できます
●多様なAIモデル(Microsoft提供モデルに加え、オープンソースやパートナーのモデルを含む)から用途に応じて選択できる柔軟性を備えており、特定のモデル提供事業者に依存しないアーキテクチャを実現できます
これらの特徴は、TKCが大切にする「Governance by Design」の考え方と完全に一致します。MCPサーバーを提供しない方針も、Microsoft Foundryを採用する判断も、関与先企業のデータを守るという同じ設計思想から出てきた、一貫した選択です。
TKCはこれまでMicrosoftと長年にわたる戦略的協力関係を構築してきておりMicrosoft Foundryの採用もその信頼関係にもとづく選択です。当社は引き続きMicrosoftと協力し、会計事務所および中小企業の業務に最適化したAI環境を構築してまいります。
5.提供スケジュール
FXエージェントおよびOMSエージェントは、以下のスケジュールで段階的に提供を進めてまいります。・2026年5月 提供発表(本リリース)
・2026年6月 OMSエージェントの一部機能の先行提供
・2026年7月 プロトタイプ公開
・2026年9月末 本格提供開始
プロトタイプの公開段階では、一部のTKC会員事務所を対象とした先行体験の機会を設け、実務現場からのフィードバックを製品改善に反映してまいります。これは、TKCが長年大切にしてきた「現場の声に基づく製品開発」の原則に沿うものです。
TKCは、税理士業務におけるAI活用の未来を、業界の皆様とともに作り上げてまいります。
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