ウクライナや中東の情勢で大国の「力による一方的な現状変更」のもくろみを、目の当たりにした。武力による抑止力向上を求める国内世論が高まる素地は理解できる。しかし防衛力や日米同盟の強化にあっては、権力の独善を許してならない。「平和主義」をうたった憲法9条に直結する重いテーマである。

 高市早苗(たかいちさなえ)首相は4月の自民党大会で「時は来た」と語り、おおむね1年以内に憲法改正の発議のめどをつけたいとの意向を示した。改憲が党是とはいえ、慎重さを求めたい。日本国憲法は施行からあすで79年を迎える。国民的な熟議を尽くすことでしか、憲法の在り方は決められない。

 ロシアの侵攻はウクライナの尊厳を踏みにじっている。米国とイスラエルのイラン攻撃は、世界経済に深刻な影響を及ぼす。こうした有事が「現状変更」の常態化を招き、地政学的リスクを膨張させた罪は重大だ。

 抑止力強化を求める国内世論の強まりは、台湾有事や尖閣諸島を巡る衝突など日本を巡る深刻な事態を想定した結果と言える。

 自民党は、憲法学者の多くから「違憲」の疑いを指摘される自衛隊を9条に明記すべきだとしている。「国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の三原則は変えない」と主張するが、戦力不保持を定めた9条2項を削除し、自衛隊を外国の軍隊並みに格上げすべきだとの意見も根強い。

 政府は、ミサイルなど殺傷能力を持つ武器輸出を解禁する防衛装備品の輸出ルールの緩和では、案件の決定に国会承認を求めていない。歯止め策が不十分だ。国際的な軍拡競争をあおらないか。そもそも意見が分かれる状況で十分に議論されたとは言い難い。

 安全保障関連3文書の改定に向けた有識者会議で首相は「防衛力の抜本的強化」を訴えた。「前のめり」だ。会議では日米同盟の核抑止力強化を求める意見も出された。議論の行方を厳しくチェックすることは不可欠である。

 9条改正を巡っては丁寧な議論を徹底しなければならない。メリットとデメリットを整理することが求められる。安全保障環境に目を凝らす半面、唯一の同盟国である米国にも毅然(きぜん)と対峙(たいじ)することが重要だ。

 自民は9条のほか、大災害時などの緊急事態条項創設、参院選の合区解消、家庭の経済事情に左右されない教育の充実を改憲の柱に据える。先の衆院憲法審査会で自民は日本維新の会、国民民主党などと条項の骨子案をまとめていることを重視し、集中審議を提起した。議論の流れをつかみやすくするため、優先順位を明確にすべきだ。

 誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)も横行するSNS(交流サイト)の規制と「表現の自由」との両立という論点もある。改憲の国民投票の際のフェイクニュース対策など課題は山積だ。

 2月の衆院選大勝に伴い、自民は衆院で初めて単独で改正発議ができる3分の2超の議席を得た。参院は少数与党だが、改憲勢力は過半数を占める。数によるごり押しは許されまい。「憲法は国家権力を縛る」との規範を肝に銘じたい。

 11月には憲法公布80年を迎える。社会情勢の変化に鑑みれば改憲は十分に想定し得る。議論を始める機は熟している。甲論乙駁(ばく)だろうが、対立する主張にも冷静に耳を傾けたい。国民の分断を招かぬよう細心の注意を払うことは自明の理である。