「ルル」の一場面(公益財団法人東京二期会提供、寺司正彦撮影)

 「ルル」の一場面(公益財団法人東京二期会提供、寺司正彦撮影)

 「ルル」の一場面(公益財団法人東京二期会提供、寺司正彦撮影)  「ルル」の一場面(公益財団法人東京二期会提供、寺司正彦撮影)

 東京二期会が、過激な内容から20世紀オペラ最大の問題作と言われるベルクの「ルル」を上演した。新型コロナ禍の2021年に初演したオリジナルバージョンで、今回は出演者同士の距離の制限がない「完全版」。実力派の歌手らが熱演し、見る者をぞっとさせる生々しい舞台に仕上げた。

 妖艶な女性「ルル」に魅了された男性たちが嫉妬にさいなまれ次々と命を落とす物語。演出家のカロリーネ・グルーバーはルル役の歌手と別にいかがわしい衣装のマネキンや「ルルの魂」役のダンサーを登場させ、「魔性の女」を作り上げたのは周囲の身勝手な欲望だということを描き出した。

 4月19日の新国立劇場での公演では、ソプラノの冨平安希子が情感たっぷりにルルを演じ、極端な高音から低音まで幅広い音域で豊かに歌い上げた。貧民街にいたルルを育て、愛人とした新聞社の編集長シェーン博士役の大沼徹(バリトン)や、その息子で作曲家のアルヴァ役の山本耕平(テノール)も好演。「ルルの魂」役のダンサー、中村蓉は舞台上をさまよい、気丈に振る舞いながら実は傷つきやすい繊細な内面を見事に表現した。

 気鋭の指揮者オスカー・ヨッケルと東京フィルハーモニー交響楽団の演奏も秀逸。第2幕序盤で退廃的な音楽が奏でられる中、ルルの実の父親とされる男性や同性愛者の女性までもが自分たちの理想の姿をしたルルのマネキンにしがみつく。むき出しにされた人間の欲望に思わず目を背けたくなり、「現実を現実以上にリアルに活写する」オペラの力を実感した。