
それにしてもエネルギッシュだ。飲食店を運営し、イベントクリエーターでもある宇都宮市在住の星絵理子(ほし・えりこ)さん(48)は、フード、音楽とともに日本酒、クラフトビール、ワインなど地酒を楽しむ屋外イベント「SAKE_TO_SAKE(酒と酒)」をJR宇都宮駅周辺で7回、JR宝積寺駅前でも2回主催している。1回30~40の魅力ある出店者を集め、しかも毎回、新規出店者を加えて新鮮さも演出する。自治体などから開催の誘いがあり、本県のお酒の魅力を「SAKE_TO_SAKE」とは別ブランドで発信することも考えていきたいという。
矢板市出身の星さんは、父親の勧めもあり、小学4年からプロゴルファーを目指し、25歳までプロテストに臨んだ。アスリートだったこともあり、食の重要性に関心を持ち、その土地の旬のものを食べて心身と地球環境の調和を目指す食事・生活法「マクロビオティック」の提案やアロマサロンを出店したり、エステサロンの店長にも就いたりしたという。
2022年には、宇都宮市上小倉町にレストラン、ラーメン店、ネイルサロンなどの商業施設「Natural works village(ナチュラルワークスヴィレッジ)」を開業した(現在休業中)。
これに並行して約12年前からはイベントクリエーターとして活動を始めた。保健所や支援企業の後援を受けた動物保護活動、トラクターで新郎新婦が入場する田んぼの結婚式、旧宇都宮パルコ前でのマルシェなどを開催した。宇都宮の伝説「黄ぶな」を親しみやすくした「郷土玩具怪獣キブナドンのプロジェクト」、18年の栃木デスティネーションキャンペーン時にJR宇都宮駅東西自由通路でフランス料理飲食イベントも実行し、周囲を驚かせた。
19年から始まったキブナドンのプロジェクトは、都内のデザイナーを巻き込むなど星さんがプロデュースし、キャラクターを活用して宇都宮の街の魅力を発信。21年には着ぐるみまで制作した。「四季桜」の宇都宮酒造(宇都宮市)も季節酒「キブナドン」まで造り、プロジェクトを盛り上げている。
「東西通路で開いたフランス料理イベントは、関係機関を20カ所くらい回って許可を取り、ようやく開催できました」。星さんはあっさりとそんなことを説明する。その行動力には頭が下がる。
23年にはユーチューブ「えりこママチャンネル」で栃木県の魅力を発信し始めた。県内のさまざまな企業を発信したいと思い、酒蔵にも足を運んだという。「宇都宮オリオン通りで飲み歩き企画なんかもやったんですが、栃木県はイチゴ、ギョーザは有名なんですけど、お酒がそれほど注目されない。私はお酒が好きだったので、栃木県の新しいブランドにお酒をしたいと思ったんです」
その思いは同年8月、次世代型路面電車(LRT)「ライトライン」が開通し、一気に注目度が上がったJR宇都宮駅東口の宮みらいライトヒルを会場にした第1回「SAKE_TO_SAKE」開催へとつながった。
この時に集まった出店者は、日本酒蔵、ブルワリー、ワイナリー、酒販店を含め、現在とほぼ同じ規模の35事業者。酒造会社などお酒関係以外は一般公募せず、フードなどの出店者については星さんが選定し、出店をお願いした。「こういう設定を組み立てれば人は来るだろう、今回はこういう人(店)を呼んでくればお客さまが喜ぶだろう、冬だったらこういう店がいいかなとか考えている」と、イベントクリエーターとして感覚を発揮した。
とはいえ、出店を働きかけても話だけでは信用してもらえない。星さんのスマートフォンにはこれまで催したイベントの写真がびっしり保存されている。「これらの写真を見せることで信用してもらった」と話す。イベントで培った人脈やネットワークから入る情報もあれば、出店してほしい事業者にはメール、ダイレクトメールで参加呼びかけも積極的に行う。
「第1回は約3千人でしたが、今では多いとき1万人くらい来てくれます。第1回からずっと出店してくれている事業者さんもいます」。イベント名が「酒と酒」だけに、特に酒類出店者には売り上げ的にも手応えがあり、喜ばれているという。
4月26日にはJR宝積寺駅前のちょっ蔵広場で2回目が開かれたばかりだ。「このイベントに来るお客さまはマナーがよく、ごみをほとんど落とさない。ですのでトラブルもなく、周囲の方にも喜んでいただいています」と星さん。「イベントは出店者だけじゃなくてお客さまが作るものだと思っています」とも語る。「お客さんが座ったら隣の人と乾杯して仲良くなっちゃう、お酒を飲むとすごくコミュニティーが広がる。常連さんとはほとんどの方が顔を知っているので乾杯しっぱなしです」
昨年10月からJR宇都宮駅ビルPASEO内に地酒と料理を楽しむポップアップのスタンドバー「SAKE_TO_SAKE」を開店し、5月末まで運営する。駅で店を構えていると、新たな発見が多々あるという。都内から宇都宮餃子を食べに来て満足して日帰りで帰る人が多いこと、よく宇都宮の観光地を聞かれ、宇都宮城址公園などを勧めたこと、芸能人のコンサートに推し活しているグループがたくさん来ること…。これら現場での何げない光景が、星さんにとっては貴重な情報源だ。「『目で見たアンケート』がすごく取れた。私はそれをどうまとめて、今後、駅を利用した活動にどう生かしていけばいいのか、とすごく感じている」と語る。
SAKE_TO_SAKEの活動は細く長く続けていきたいという。と言いつつ、昨年10月、JR氏家駅前でお酒とジャズを楽しむ「セイバー&ジャズモア」を開催した。「毎年、年に1個は新しい、名前の違うイベントをつくろうと思っている。今年も1個立ち上げたい。場所は基本、駅ですね。やはり県内外から行きやすいことが必要です」。市や町からイベント開催の依頼を受けているが、「他の方でも出来るんだったら他の方にやってもらっていいと思う。私がやる意味があるのかどうか、私がやるならこういうものですけどどうでしょうという話をさせていただき、OKだったら進めるみたいな感じ」と言う。
「私にはお酒を造れないけど、お酒を造っている方をバックアップしたい。新しい栃木って言ったら、日本酒だよね、クラフトビールだよね、ワインもそうだろうって言われるようにしたい」と言い切る。「今、それが私の使命だと思って、勝手に背負っていますが、お酒の造り手さんは酒を造ることができても、その発信は得意じゃない方が多く、手も回らない。で、私は逆に発信することはできる。餅は餅屋じゃないけど、それを一緒にできればと思っている」。このような地酒を応援する記事を書いている私にとっても、同感することしきりだ。
「10年先こうなったらいいなと見据えながらやっている。『栃木イコールお酒のおいしい所』にしたい」。5月5日にはJR宇都宮駅東口の宮みらいライトヒルを会場に8回目の「SAKE_TO_SAKE」が開かれる。ゴールデンウイーク中の開催は初めてだ。多くの人が栃木の酒の魅力に触れる絶好の機会になるだろう。
(伊藤一之)

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