柔らかな春の雨が窓をたたく。その先の空は、まぶしく感じるほどに白んでいた。
10日午後、大田原市内のサービス付き高齢者向け住宅。元参院議員の谷博之(たにひろゆき)さん(82)が暮らす一室を訪ねた。整然と片付いた部屋の壁際では、大きな段ボールとボストンバッグが出発の日を待つ。
「何が起きても、うまくいってもいかなくても、それで良しとして生きていくんです」
谷さんは24日、60年あまりを過ごした栃木県に別れを告げ、出生地の徳島県へと帰郷する。
2カ月ほど前だった。「体が危ない。帰って来て面倒を見てほしい」。突然、徳島市内のマンションに1人で暮らす姉(88)から頼まれた。快諾はできなかった。人生の幕引きは、栃木で迎えるつもりでいたからだ。
◇ ◇
太平洋戦争の戦禍が激しさを増していた1943年7月。谷さんは徳島市で生まれた。4人きょうだいの3番目で、姉が2人に妹が1人。
62年、宇都宮大農学部への進学のために、故郷を遠く離れ、宇都宮市へやってきた。電車に揺られて丸1日。たどり着いた東武鉄道の江曽島駅周辺は、自分がどこにいるかもわからないほど真っ暗だった。
大学の寮の先輩から声をかけられ、1年生から学生運動に加わった。3年になると寮長として寮生主体のデモを率い、「警察のお世話」になったこともあった。「貧しくても良い時代」だったあの頃が、政治の道を歩むきっかけとなる。
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